韓国補欠選 朴大統領、支持率低下もなぜ与党大勝? その背景を海外メディア分析
韓国で先月30日、国会議員の再・補欠選挙が15選挙区で同時に行われた。「ミニ総選挙」とも称され、今後の朴槿惠(パク・クネ)大統領の政権運営を占うものだった。このところ、朴大統領の支持率は大幅に低下し、与党の苦戦、あるいは大敗すらも予想されていた。しかし、ふたを開けてみれば、15の選挙区のうち、11議席を与党が獲得した。
【与党が大敗する可能性もあった?】
韓国の国会は、議員定数300の一院制である。外務省のデータによると、今年3月時点で、与党セヌリ党が147議席、最大野党の新政治民主連合が126議席、空席が15議席となっていた。今回の再・補欠選挙により、与党は158議席となり、過半数を優に超えた。対する新政治民主連合は4議席を獲得、130議席となった。
世論調査会社・韓国ギャラップが7月初めに行った調査では、朴大統領の支持率は、就任以来最低となる40%にまで落ち込んでいた。これには、4月に起きたフェリー・セウォル号の沈没事故をめぐって、政府の対応のまずさに、国民が不満を抱いていることが関係していると、英フィナンシャル・タイムズ紙は指摘している。
また、韓国の鄭烘原(チョン・ホンウォン)首相は、同事故の責任を取るかたちで、4月に辞任の意思を表明した。その後、朴大統領が後任の首相を指名したものの、候補者の過去の言動が問題視されて、候補者自ら辞退するということが、2度続いた。このことでも、朴大統領の指導力が疑問視される羽目になった。なお結局、首相は留任するということが決まった
【野党の何が駄目だったのか?】
野党側はこれに乗じ、この事故に関する政府の対応の不備を執拗に追及した。国会では、事故調査に関する特別法(「セウォル号特別法」)を最優先議題と位置づけ、その他の議題の審議を拒絶した。今回の選挙戦でも、この問題を主要な争点とした。そしてこの選挙を、一種の国民投票、政府への信任投票と位置づける戦略を採った。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のブログ「韓国リアルタイム」によると、この戦略は、多くの有権者に共感を与えなかったという。
選挙前日の29日には、野党・新政治民主連合の院内報道官が、先日発見されたフェリー運航会社の実質的オーナー、兪炳彦(ユ・ビョンオン)氏の遺体は別人のものだった可能性がある、と発表した。しかし、中央日報(記事1)によると、この発表は、フェリー事故の傷跡に苦しむ国民を、むしろあきれ返らせるものだったらしい。
さらに、野党側は、公認候補の選出で、ひどい内輪もめの状態にあったという。中央日報(記事2)は、今回の敗因の50%以上は、このごたごたのせいだったとするアナリストの見解を紹介している。ある選挙区では、新政治民主連合に指名された候補者が記者会見を行っている会場に、指名から外された者が、文字通り怒鳴り込んだという。同連合のやり方に抗議の声を上げたその光景は、テレビで生中継されていた。
【与党のどんなところが評価された?】
与党は、選挙戦において、主に、韓国経済再生のための政策をアピールポイントとした。セヌリ党の金武星(キム・ムソン)代表は選挙戦最終盤に、現在の最重要課題は国民経済である、と強調したことを中央日報(記事2)は伝えた。
現在、韓国経済は、フェリー事故のために消費者感情が冷え込み、個人消費が落ち込んだ影響もあって、成長が鈍化している、とフィナンシャル・タイムズ紙は伝える。韓国政府は経済対策として、景気を刺激し、成長を促すための政策を最近発表した。約4兆円の資金供給を行う大規模なものだ。
韓国政府はその他にも、規制緩和や税制改革など、さまざまな経済対策を選挙期間中に打ち出している。この結果、株価は順調に上昇している。
中央日報は、経済再生を第一に打ち出す与党の戦略が、野党を圧倒した、と報じた。
【今後の朴大統領の政権運営に与える影響は?】
今回の勝利によって、朴大統領は、喉から手が出るほど必要としていた後押しを授けられた、とフィナンシャル・タイムズ紙は述べる。これにより、政府の経済政策と、フェリー事故を受けての国家改革を追求し続ける自信が高まるだろうという。
ウェブ誌『ディプロマット』の論稿は、今回の選挙結果が、今後の与党、ならびに朴大統領の政権運営に与える影響を論じている。
与党セヌリ党は、先月14日に全党大会を開き、金武星氏を新代表に選出したばかりだ。今回の選挙結果を受けて、党における金代表の指導力が強固なものになった、と記事は語る。また、党の結束も高まったという。
与党が国会で過半数を超えたことにより、朴大統領の、政策決定における自由度が高まったという。現在、韓国政府は、米市場の開放と、中国との2国間自由貿易協定(FTA)の交渉を進めている。交渉の内容がどうであれ、議会の承認を得やすくなったことで、朴大統領サイドには、交渉において駆け引きを行う余地が増したという。