中国紙「日本はロールモデル」、「中国の発展に貢献」 異例の“ヨイショ”の背景とは

 今年上半期に日本を訪れた外国人観光客数(推計)が、前年同期比で26.4%増の626万400人に達した。中でも中国人観光客は88.2%増・約100万人と急増中だ。日本政府観光局が発表したこの数字を受け、中国国営英字紙『グローバルタイムズ』は、「日本は敵でも友人でもない」と題した社説を掲載。普段は反日的主張が目立つ同紙だが、「中国の知識層はさまざまな分野で日本を賞賛している」「日本は中国の発展に大きな役割を果たしている」などと論調を軟化させている。

 一方、別の中国国営英字紙『チャイナ・デイリー』は、7月25日の日清戦争開戦120周年に合わせて、「安倍晋三の日本は120年前と極めて似ている」などと、日本を激しく非難する社説を発表した。

【一般市民の“親日”ぶりに戸惑いを隠せず】
 グローバルタイムズは、今年が日清戦争開戦120周年であることや、「安倍晋三首相が中日の政治的関係を混乱させ続けている」ことを考慮すれば、中国人観光客の急増は「驚くべき新事実」だと、戸惑いを隠せない様子だ。

 同紙は、「歴史問題において日本政府が誤った立場に頑なにしがみつく」ため、政治的な面では中国人の日本への反感は残るとしながら、「政治と一般市民同士の交流は別問題」と、その矛盾を自己解決する。そして、環境保全、食の安全、社会的秩序などにおいて特に知識層は日本を賞賛しているとし、「日本は依然、これらの分野では中国にとってのロールモデルだ」などと“ヨイショ”している。

 日本から中国を訪れる観光客は逆に減っていることにも触れている。これについては「中国に対するネガティブな理解」の現れであり、それは「日本人の自信のなさを表す」と、いつもの舌鋒が復活している。

 一方で、120年前のように簡単に敵味方に分けることができない現代においては、「現実主義がゴールデン・ルールだ」と冷静な分析も展開。「日本は中国の発展に大きな役割を果たしている」とし、「簡単に敵味方に分けることはできないのだ」と記事を締めくくっている。

【今も影を落とす日清戦争の「屈辱」】
 一方、チャイナ・デイリーは、日清戦争開戦120周年を語った社説で「歴史上最悪の敵」と日本を罵っている。グローバルタイムズとチャイナ・デイリーは共に、中国共産党の意向を代弁するとされる国営英字紙だが、日本に向けた敵意のトーンがはっきりと分かれた形だ。

 チャイナ・デイリーの社説は、日清戦争当時もその後の日中戦争・太平洋戦争においても、日本は「朝鮮の独立維持のため」「大東亜共栄圏の設立」などと平和の旗振りしながら、「サプライズ攻撃」によって侵略戦争を行い、その二面性をもって世界を欺いたと非難。海外での軍事的プレゼンスの拡大に励む現在の「安倍晋三の日本」も120年前と極めてよく似ており、「安倍は口で平和を唱えながら中国との戦争を扇動している」などと警戒感を露わにしている。

 こうした日清戦争120周年に絡んだ中国メディアの論調について、AFPは「多くの敗戦国と違い、中国共産党はその敗戦を“犠牲の物語”として美化している」と論じる。日清戦争に関する著書があるアメリカ海軍大学のサラ・ペイン博士は、日清戦争はそれまでのアジアにおける中国の軍事的、経済的、外交的、技術的、文化的優位性が覆された「屈辱的な敗戦」であり、以後中国はずっとそれらを取り戻そうともがいている、と私見を述べている。それが、中国が120年前の過去に日本以上にこだわる理由であり、国家的な反日意識の要因だという。

【専門家は11月のAPECでの雪解けを期待】
 愛憎入り乱れた対日論が中国メディアから出る中、紛争解決を目的とする研究機関「国際危機グループ」の研究員、ヤンメイ・シエ氏(中国専門)が、日中の緊張の行く末についてドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ」のインタビューに答えている。

 シエ氏は、尖閣問題を「外交で解決する余地は狭まっている」と見る。当面は解決を図ることよりも、現状維持しつつ致命的な軍事衝突を避ける努力が必要で、海上保安庁、自衛隊、中国海軍・空軍といった“現場”に対する両国のトップによる「衝突を避けるための明確な指示」が必要だと主張する。

 両国首脳に対しては、安倍首相は二度と靖国参拝をしないと約束し、習近平主席や中国メディアは反日的な論調をトーンダウンするべきだと述べる。そして、ハイレベルの政治的な話し合いのチャンネルが必要だとし、11月に開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会談がその端緒になるかもしれないと述べている。

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Text by NewSphere 編集部