「真意不明」北朝鮮のミサイル発射…内陸部からの発射で軍事力を誇示か?
9日未明、北朝鮮は、同国南西部より日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射した。北朝鮮では昨今、ミサイル、ロケット弾の発射が相次いでおり、この2週間だけで4度目となった。
【発射されたのはスカッドミサイルと推定】
韓国軍合同参謀本部によると、発射されたのは、射程距離約500キロメートルの「スカッド」ミサイルと見られており、今回の飛行距離も約500キロだったとのことだ。
このタイプのミサイルが日本に直接影響を及ぼす可能性は低い。しかし、ミサイル発射は国連安保理決議違反であるとして、日本政府は北朝鮮に対し厳重な抗議を行った。2006年に採択された国連安保理決議第1695号では、北朝鮮に、弾道ミサイル計画に関連する全ての活動を停止することを要求している。
【北朝鮮のいつもの「真意のはっきりしない」策略、と海外メディア】
ニューヨーク・タイムズ紙は、北朝鮮が、日本と韓国に歩み寄りの姿勢を見せていたタイミングだったにもかかわらず、ミサイル発射が行われたことに着目している。日本に対しては、拉致被害者らの再調査を約束し、その見返りとして、日本が北朝鮮に課した経済制裁の一部が解除されたことを伝える。韓国に対しては、9月に仁川(インチョン)で開催されるアジア大会に、選手団だけでなく応援団(いわゆる「美女軍団」)も派遣する、と7日に表明したことを伝える。
韓国の英字紙『コリア・タイムズ』も、ミサイル発射という挑発の一方、北朝鮮がこのところ韓国に対して、和平を打診していると伝える。北朝鮮が、朝鮮半島の平和を追い求めていると熱心にアピールする一方で、軍事力を見せつけるのは、同国が安全保障問題に取り組むときには毎度お決まりの「真意のはっきりしない」策略だ、と専門家らは語っているという。
【相次ぐ発射は、主に中国に対するアピール?】
コリア・タイムズは、北朝鮮のミサイル、ロケット弾発射のタイミングを振り返り、それが中国の動きと関連していることに注目する。2日には、北朝鮮はロケット弾2発を発射したが、それは中国の習近平国家主席が韓国を公式訪問する前日だった。そして今回、9日のミサイル発射は、米中の閣僚らが会談を行う米中戦略経済対話が、北京で開かれる数時間前だった。
専門家らは、国際的に孤立する北朝鮮はたぶん、現在唯一の主要同盟国となった中国政府との関係が悪化している中、ミサイル発射によって、その能力を誇示することを求めたのだろう、と見なしているという(自国に関心を引きつけようとする計略と思われる)。
【内陸部からのミサイル発射は珍しい?】
今回のミサイル発射では、発射地が内陸部だったことも、関心を呼んでいる。聯合ニュースによると、ミサイルは、北朝鮮南西部の黄海道にある基地付近から(北東方向に)発射され、北朝鮮の上空を横切って、日本海へと落下した。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、北朝鮮は今年、ミサイル、ロケット弾発射試験を13回実施しており、計90発を発射している。その大部分は、東海岸から(日本海へ向けて)発射されているという。すなわち、北朝鮮上空を通過しない。例外として、3月に発射された、射程距離約1300キロの「ノドン」は、平壌の北にある粛川から発射され、同国上空を横切って650キロメートル飛行し、日本海に落下した。粛川は北朝鮮西部にあり、黄海に面している。
コリア・タイムズは、北朝鮮が沿岸部からではなく、内陸部からミサイル発射をしたのは、ほぼ20年ぶりのことだと述べている。「北朝鮮は、いつでも、どこからでもミサイルを発射できるのだと見せつけることを狙いにしているようだ」と、韓国のある高官は語ったという。
(ただし聯合ニュースは、北朝鮮は2000年代に同道から弾道ミサイルを発射したことがある、と報じている。しかし、NHK、時事通信などの報道では、黄海道から日本海にミサイルが発射されたのは、2000年代に入って初めてだとされている。)
【北朝鮮の核・ミサイル計画の大物の死去】
ロイターは、北朝鮮の核・ミサイル計画において、多大な役割を果たした全秉浩(チョン・ビョンホ)氏の死亡を、比較的詳しく報じている。7日に亡くなったとされるが、国営朝鮮中央通信によって報じられたのは、今回のミサイル発射と時を同じくする9日のことだった。
ロイターによると、全氏は北朝鮮の前指導者、金正日書記の側近であり、2011年に公務から引退するまで、40年以上にわたって、北朝鮮の兵器製造・開発における高官として勤めた。長距離弾道ミサイル計画を監督し、また2006年の同国最初の核実験に直接に関与していたという。
また全氏は1990年代に、パキスタンとの取引をまとめることに寄与したとされる。その取引では、パキスタンから北朝鮮に対し、ウラン濃縮計画の鍵となる重要技術が提供され、そのかわりに、北朝鮮の高度なミサイル技術がパキスタンに輸出されたという。その技術はパキスタンで今も用いられているとのことだ。
全氏は昨年、国連により、渡航禁止と資産凍結の制裁を個人として課されている。
全氏の葬儀は国葬として営まれ、金正恩第一書記が葬儀委員長を務めるという。