STAP論文掲載のネイチャー誌、大学の“足元をみる”? 関連誌4倍の値上げも
理研の小保方晴子研究ユニットリーダーらが、STAP細胞の2本の論文のうち、1本を撤回する意向であると報じられている。論文を掲載した英科学誌ネイチャーのサイトは、これについて「独自に評価を進めており、近く結論を出したい」という広報のコメントを紹介している。
STAP細胞研究について、日本の一連の報道では、ネイチャー誌は「もっとも権威ある学術誌」という注釈が行われた。問題の論文がこの「有力誌」に掲載されたことで、混迷の度合いが深まったともいえる。
ところが、世界の科学研究は、これら「学術有力誌」を過去のものとして、新たな流れを再編成しようと模索している。高額な購読費用、情報の寡占的状態が原因だ。そもそも学術情報をあまねく伝えることが使命だったはずのネイチャーなど有力誌が、なぜこのように多くの大学・研究機関から排斥される矛盾におちいったのか。
【科学技術研究でのジャーナルの重要性】
近代の科学技術研究・開発で、ジャーナルの存在の重要性は計り知れない。日本は海外の科学技術情報を丹念に習得してきた。現場では、斬新な発想を加えて新たな学術論文を発表したり、革新的な工業製品を開発したりして、世界をリードしてきた。
先の大戦では、戦争によって海外の新たな技術情報を入手することが困難になった。ジブリ映画「風立ちぬ」主人公の堀越二郎氏らが、なぜ先進的な航空機を開発できたのか、その後なぜ優位を維持できなかったか、日本の科学技術研究環境を如実に物語っている。
【有力高額誌の定期購読を中止、世界中の研究機関で大ナタをふるって予算削減続出】
現代でも、世界中の大学・研究機関において、ジャーナルは同様に重要だ。こうした中、ネイチャーなどの「有力誌」は、購読料金を毎年のように値上げしてきた。
折からの経費節減の波は世界中の研究機関に押し寄せ、従来のような定期購読が維持できなくなりつつあるところもある。科学ニュースサイト『サイエンティスト・マガジン』誌、メーガン・スクデラリ氏によれば、2009年の段階ですでに世界61ヶ国、835の機関において購読中止が断行されたという。
カリフォルニア大学、アレックス・ベル教授らは、400%の値上げに踏み切ったネイチャー関連誌の不買運動を行い、「何倍もの値上げは不当。限度を超えた搾取だ」と同僚研究者へ一斉メールを発信したという。声明文は同大学公式サイトに掲載されている。同大図書館によれば、ネイチャー関連の67誌につき、年間100万ドル(約1億円)の値上げが行われたという。同図書館では、経費節減の厳しい要求に年間100万ドルの節減を実行したばかりだったところで、「切迫した危機」とコメントした。
ハーバード大学では2012年、大学の諮問機関が「主要な定期刊行物購読をもはや維持できない」と答申したこともあった。
『電子情報通信学会誌』高橋努氏によれば、日本の大学・研究機関の多くは経費節減を目指し、電子ジャーナルの包括的なパッケージ契約(ビッグディール)という、パッケージ化した雑誌の購読を選択した。ところが、これが海外出版社による寡占状態等の理由により、毎年度値上げ(約7%)され、円安もあり負担が増加するという構造的な苦戦を強いられている。コンソーシアムを結成するも、出版側とは解決にはいたらない。文部科学省によれば「研究遂行において不可欠な情報源」であることで、一方的な交渉となっているからだという。
【日本特有の三重投資の論文投稿】
日本にはさらに特有の問題がある。一般に学論論文は『査読(peer review)』という同じ分野の研究者による査定を経て学術誌に掲載が決定される。さらにその掲載誌が他の研究者から引用・参照される頻度をはかる指標『インパクト・ファクター(IF)』がある。IFの数値が高い学術誌ほど掲載へのハードルが高く、掲載されれば程度が高い論文とされる。
日本にも英文の国際学術誌は存在するが世界の有力誌と比較すればIFは高くない。一方、研究者の業績評価の基準として、査読つき学術雑誌に何本の論文が採択されたかと、その学術誌のIFが厳しく問われる。そのため日本の研究者は、海外の著名誌へ投稿することが多い。文部科学省は『論文流出問題』として、国富の流出を憂慮している。日本の税収で行った研究結果を、海外雑誌に投稿費用を支払って投稿し、それを高額で購読するという三重投資であるからだ。
【問題の存在を予見できたSTAP細胞論文、それを掲載したネイチャー】
問題のSTAP細胞研究の論文はネイチャーに投稿され、きわめて話題性のある論文として採択された。掲載論文の文書や画像のオリジナル性についてスクリーニングを行うことは、現在では当然とされているが、ネイチャーはこれを行った形跡はない。
幹細胞研究者のカリフォルニア大学医学部のポール・ノフラー准教授はこれを批判するとともに、共同著者として何もしていない大物をそろえて採択をねらうなど、投稿者側のモラルの低さも指摘する。
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