“米国も中国企業にサイバー攻撃”中国とNYT紙が報道 米政府の中国将校訴追受け

 アメリカのホルダー司法長官は19日、米企業システムにハッカー侵入し秘密情報を盗んだとして、中国人民解放軍の5人を刑事訴追すると発表した。この5人は、軍のハッカー組織に関与する『61398部隊』に属する人物であるという。

 攻撃を受けたのは、東芝傘下で原子力関連企業のウェスティングハウス、アルミニウム製品のアルコア、特殊金属のアレゲニー・テクノロジーズ、鉄鋼のUSスチール、ドイツの太陽光発電ソーラーワールドの米子会社、および鉄鋼労働組合であった。

【初の産業スパイ告発】
 フィナンシャル・タイムズ紙によると、今回の件は、米政府が他国のサイバー攻撃を「一般企業に対する産業スパイ」として訴追する、初のケースだという。

 同紙によると、米司法省の国家安全保障部門は、こういった事件に対する訴追の進め方を訓練してきた。アメリカの企業や政府機関は、海外ハッカーによる脅威に晒されてきている。主な発信元は、ロシアと並んで、ここ最近急増している中国の軍関係からのものだという。

 戦略国際研究センターのジェームズ•ルイス氏によると、多くの企業は、自社の情報が盗まれた事実を積極的に提供することはなく、見つけるのに苦労したという。「特に中国との取引がある企業においてそういった傾向が顕著だ」と同氏は語っている。

 今回攻撃の対象となった企業のひとつであるアルコアの広報担当者は「データのセキュリティは我々にとって最優先事項であり、これからも情報保護に投資していく」と語り、かつ「把握する限り重要な情報は漏洩していない」と述べているという。

 またソーラーワールドも、「従業員や顧客のデータベースのいずれも侵害されていなかった」と述べたという。

【アメリカも同じことをしている?】
 ニューヨーク・タイムズ紙によると、これらの企業は中国のスパイ活動のターゲットのほんの一部だという。例えば、国防長官のオフィスや、あるいはニューヨーク・タイムズ紙のオフィスも、ずっと中国のハッキング部隊の対象であったという。

 しかし、それに対するアメリカ側の抗議は、限られたものであると同紙は言う。その理由は、アメリカも、中国の同様の施設を、やはり諜報活動の攻撃対象としているからだという。

 そのため、オバマ大統領が習国家主席にこの件について持ちかけたときも、あくまでも「企業相手」の産業スパイ活動の話にのみ焦点を置いたと同紙は伝える。こうした国家の技術を企業の金儲け目的に使うのは、遥かに悪質だからというのが米側の論点だ。

 つまり、アメリカは、中国の核武器について知るため、もしくは日本との領土争いについての中国政府の意図について知るためなら、できる限りの手を尽くすかもしれない。しかし、AT&T(米大手電話会社)の儲けのためにチャイナ・テレコム(中国の電気通信事業)の情報を盗むことはしない、ということだ。

 しかし、アメリカが「一企業の直接的な儲けだけのためではない限りは」産業スパイにも関わってきたのは明らかだ、とニューヨーク・タイムズ紙は述べる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アメリカが華為技術(中国の大手携帯電話等通信機器メーカー)にハッキングを行っていたことが、昨年エドワード•スノーデン氏によって告発された、アメリカ国家安全保障局(NSA)による情報収集の手口から明らかになっていたとのことである。

【アメリカこそ最悪のハッカーと中国】
 中国国営新華社通信によると、国務院情報省の報道官は19日、アメリカによるサイバー攻撃の最新のデータを公表し、アメリカこそがサイバー攻撃の悪の根源だと主張したという。

 中国はアメリカにサイバースパイ活動をやめるよう繰り返し要求してきたが、活動はやまず、かつ一切の謝罪もしていないと断ずる。スノーデンの件の後、アメリカは世界中から非難を集めたのに、それでもアメリカは一切自身の行いを顧みることなく、それどころか他者を非難している、と同報道は伝えている。

 また今回の5人に対する訴追については「根拠がない」と述べ、アメリカが独自の手段をとるならば、中国も相応の策で応じる、と報道官は発言したという。

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Text by NewSphere 編集部