中国、米国の批判は“言葉だけ”と計算か 南シナ海石油掘削強行、行動しない米政府を米紙が批判
中国の国営企業が、南シナ海の南沙諸島付近に石油採掘装置を設置したことで、中国・ベトナム間の緊張が高まっている。海外各紙が各国の思惑について分析を繰り広げている。
【アメリカも中国を非難】
ロイターによると、ケリー米国務長官は、中国の行為を「挑発的」という言葉で非難した。ケリー国務長官は、王毅中国外相に電話で伝えたとのことである。
これに対し、中国外交部の華春瑩報道官は「地域を挑発しているのは中国ではなくアメリカだ。もしアメリカがアジア太平洋地域の安定を望むなら、慎重に行動すべき」と激しく応戦した。
また華報道官は、ベトナム船への放水攻撃に関しては「ベトナムが中国企業の通常業務を妨げたため、設備や人員の安全を確保するために必要な措置を取らなければならなかった」と述べている。
【アメリカが何もしないから中国がやりたい放題?】
ワシントン・ポスト紙の社説は、この中国の動きについて「アメリカの無行動」が原因と指摘する。
ようやく腰をあげたかのように見えるアメリカだが、その対応は言辞の域を出ない可能性が高い、と同記事は分析する。実際、国務省当局者は、領有権争いについてどちらの立場も取らない旨を先週ハノイで伝えたという。
今回標的となったベトナムは、アメリカとの軍事協定もなく特に脆弱、と同記事は述べる。ASEAN首脳会談でも、ベトナムの訴えに対し近隣国は中国を名指しせず「継続的な発展」について「深刻な懸念」を表明するに留まった。
こうした要因が中国側の強行を許している、と同記事は見ているようだ。今回の掘削装置設置も「強硬な手段に出ても近隣国やアメリカから実のある抵抗などされない」という中国側の計算を反映している、と指摘する。
豪ローウィ国際政策研究所のローリー・メドカルフ氏は「今後も一方的に振る舞うか、それとも地域の国と協力するか、これは中国へのリトマス試験だ」とウォール・ストリート・ジャーナル紙(ウォール紙)に語っている。その問いに対するワシントン・ポストの見解は「各国がまとまって外交的あるいは軍事的抵抗を起こすまでは、中国は独り突き進む可能性が高いだろう」というものだ。かつ「はたしてアメリカとその同盟国が対抗策を練っているのかどうかは、まだ明らかではない」と同記事は述べている。
ウォール紙によると、採掘装置を設置した中国海洋石油総公司(CNOOC)が政治的な理由で動いているのか、あるいは単に利益のために動いているのかは、多くの専門家にとっても不明なままだという。一方、北京大学の查道炯氏は「CNOOCはそれほど政治に敏感ではない。採掘装置の設置に外交部の事前許可すら得ていなかった可能性もあると思う」との見解を示しているとのことである。
【領有権争いで遅れる資源開発】
またウォール紙は、同地域における領有権争いが、南シナ海における資源の開発調査および活用を妨げていると指摘する。
同紙によると、南シナ海には190兆立方フィートのガスと11億バレルの石油があるというのが米エネルギー情報局の推定だという。しかし、このように複数の国が主権を主張する地域において、外国の石油会社はなかなか開発ができない。同局は昨年の報告書で「南シナ海の領有権争いにより、同地域の石油•ガス開発は遅れをとっている」と述べている。
また、資源も重要だが、南シナ海がそれ以上に重要な意味を持つのが、インド洋と太平洋を結ぶ通路としての役割だという。海運コンサルタントのドリューリー氏によると、世界の海上貿易の約4分の1がこの地域を通行する船によるものとのこと。メドカルフ氏も、「南シナ海は世界の主要貿易国すべてに取って不可欠な生命線。同地域の不安定は余計なコストに繋がる恐れをはらんでいる」と同紙に語っている。
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