アメリカでは“どこ出身?”が差別 日本も将来そうなる可能性がある
アメリカで2010年に実施された国勢調査によると、米国民のうち、アジア系住民はおよそ5%を占めている。一番多いのは白人で、割合を下げつつあるとはいえ、いまだ7割以上を占めている。多民族国家アメリカで、アジア系住民は、完全に溶け込んでいるのだろうか。それとも何らかの差別を感じているのだろうか。
【日常の小さな差別“マイクロアグレッション”】
ソーシャルニュースサイト『ラプラー』は、アジア系アメリカ人が日常生活でよく出くわす“マイクロアグレッション”についての記事を掲載している。
“マイクロアグレッション”というのは、自分とは異なる人種であったり、文化的背景を持つ人に対して、相手が不快に思ったとしても仕方がないような言葉を、当人には十分な自覚がないまま言ってしまうことだ。アメリカの精神医学者チェスター・ピアスが1970年に提唱した。ピアス氏はアフリカ系アメリカ人であり、自身が言われた経験に基づくのだろう。
記事では、「有色人種に対して発せられる、日常的な侮辱、無礼、ばかにした発言だが、発したほうには悪意はなく、相手に送られることになる隠れたメッセージには気づいていない」という心理学者による定義を挙げている。
日本で言えば、外国人が箸を使いこなしたり、漢字を読み書きするのを見て、大いに褒めそやしたりするが、相手がもう何年も日本に住んでいるような場合には、これは“マイクロアグレッション”にあたる可能性がある。移民受け入れについては今のところ先行き不透明だが、受け入れが決まればこの問題についてより敏感になる必要がでてくる。
【「どちらのご出身ですか」は“マイクロアグレッション”?】
『ラプラー』の記事では、「どちらのご出身ですか」と尋ねられるのを“マイクロアグレッション”の第1の例に挙げている。フィリピン系アメリカ人の投稿者は、4歳の白人の子供からこの質問を受けたという。あなたと同じく、アメリカで生まれたアメリカ人だよ、と答えても、子供は怪訝そうだったという。アメリカ人イコール白人、という考え方が、4歳の子供にも植え付けられているのだ。
尋ねるほうは、相手のことをもうちょっとよく知ろうとしているだけで、それが侮辱的になりうるとは思っていない、と記事は言う。しかし見た目だけで、アメリカ生まれではないと決めてかかることになってしまう。このような聞き方をするかわりに、「あなたの民族性、民族的素性は何ですか」と聞くほうがよい、と勧めている。
そのほかに、誰かのことについて話しているとき、話している内容は民族性とはまったく関係がないのに、その人がアジア人だとやたらと強調することを挙げている。
また、「アジア系アメリカ人」と言わずに、ただ「アジア人」と呼ぶのは、いつまでたっても本当のアメリカ人ではなく、永遠に外国人だということを含意してしまう、と指摘している。記事は、1988年以降、「アフリカ系アメリカ人」という呼び方が急速に普及したことを引き合いに出している。
【広く流布しているアジア系アメリカ人一般のイメージ】
学生の立場から、大学キャンパスにおける、アジア系アメリカ人への“マイクロアグレッション”を告発しているのが、コロンビア大学の学生新聞『コロンビア・デイリー・スペクテーター』だ。
そもそも、モルジブから日本まで、広範囲でさまざまなルーツを持つ人たちを、アジア系アメリカ人として、一緒くたに語ることに無理があるという。しかしそれでも、アジア系アメリカ人というと、ある共通した人物像のイメージで語られることが多いという。それは、アジア系アメリカ人は勉強熱心で、比較的裕福で、成功しやすい、というものだ。このようなイメージには「モデル・マイノリティ」(模範的マイノリティ)という名前が付いており、アメリカでは広く流布している“神話”だという。
比較的裕福だというイメージは、日系や中国系、韓国系など、東アジアにルーツを持つ層には、一部当てはまらないこともないが、経済的に恵まれていない場合が少なくない東南アジア系の学生にとっては、これは逆風となるという。アジア系学生を対象とした奨学金の数が少ないためだ。
【キャンパスでの“マイクロアグレッション”】
また、同紙は、アジア系アメリカ人学生が、キャンパスで実際に体験したマイクロアグレッション”を紹介している。
ある学生は、大学1年生だったとき、レポートを書いているあいだに担当教員と面談したが、英語は母国語ではないのかと尋ねられ、まったく失礼に思ったという。教員は失礼を詫びてから、ではバイリンガルなのかと尋ねたが、これは前の質問よりちっともましになっておらず、やはり失礼だと思ったという。アメリカ生まれ、アメリカ育ちなのに、見た目でそう判断されたことが、良くなかったようだ。
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