クリミア投票、95%がロシア併合賛成 欧米の圧力だけでない、ロシアがすぐに併合しない理由とは?
ウクライナのクリミア自治共和国で16日、ロシア編入の是非を問う住民投票が行われた。開票の結果、賛成が圧倒的多数の95%以上という結果となった。
これに対し、アメリカと欧州連合(EU)は投票結果の受け入れ拒否を表明している。日本政府もこの結果を承認しない意向であることを、菅官房長官が17日午前の記者会見で発表している。
【アメリカ・欧州・日本 それぞれの思惑】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アメリカ政府はこの結果を受け、軍の監視下で行われた投票など無効であると非難した。国際社会も認めないと断じ、直ちに経済制裁に踏み切る構えを示しているとのことである。
一方EU勢は、住民投票は違法と表明しつつも経済制裁には身構えの動きと同紙は報じる。ドイツ政府は、併合に向け強硬措置を取るよりもよりも、まずはこれ以上争いが悪化することを防ぐのが最優先との姿勢であるという。
このようなアメリカとEU勢の温度差について、エネルギー資源問題が背景にあることを本村真澄JOGMEC担当審議役は指摘する。シェールガスの発掘により資源独立国となりつつあるアメリカと違って、ヨーロッパは天然ガス資源の3割をロシアに依存している。ロシアを突き放しても自身へのダメージがないアメリカは強硬な制裁措置をとれるが、ヨーロッパはそうはいかない、と同氏は東洋経済オンラインに語っている。
日本にも同様の事情がある。日本も、やはり多くの天然ガスをロシアからの輸入に頼っている。経済措置により取引が遮断された場合、カタール産の高価なもので代替せざるを得ず、燃料資源が高騰してしまうことになる。そのためG7として欧米勢に同調しつつもあまり強い論調に出られない傾向にある、と同氏は言う。
【歓喜のロシア系住民と、沈黙の反対派住民】
国際社会では批判を浴びている今回の投票だが、住民本人達は圧倒的多数の賛成という結果を「当然のこと」と受け止めているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、住民の多数をロシア系が占めるクリミアでは、1954年にロシアからウクライナへ編入されて以降もずっと、ロシアに属すると思っている住民が多いという。ある住人は「どこにも移住することなく祖国へ帰れるなんて夢のようだ」と語ったという。
反対派も存在する。とくに人口の12%を占めるタタール人は、住民投票を違法と考えているらしい。あるいはロシア系でも、ロシア時代を知らない若い世代などはやはりウクライナへの帰属意識が強いという。
しかしこのような反対派の多くは投票を棄権したようだ、と同紙は報じる。反対派には常に圧力が存在し、その相手は知人から、方々を巡回するロシア軍にまで至る。意見の対立は親子や親戚の間ですら生じており、家族の関係を壊しかねない。そのため多くの反対派は沈黙を貫く状況に追いやられている、と同紙は伝えている。
【厳しい選択を迫られるロシア】
ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、ロシア政府はこの住民投票が国際法に従った正当なものであるとの見解を表しているが、これで直ちにクリミア併合、とはいかないだろうと同紙は分析する。
クリミアは電気や水道などライフラインの多くをウクライナ本土から調達している上、ロシアとは陸路での繋がりがなく物流的に便が良いとは言えない。本当に編入するとなれば、ロシアにとって痛い出費が増えるのは必須となり、プーチン大統領にとっては難しい決断というのが同紙の見方である。
とくにロシア国内の経済が悪化している今、その影響は一層重くのしかかる。フィナンシャル・タイムズ紙によると、ウクライナ危機後、ロシアの株式市場およびルーブルは暴落している。資金流出を防ぐ緊急措置により、海外の銀行へ流れていた預金を国内へ呼び戻すことで一旦は落ち着いたロシアの銀行だが、欧米の金融機関はすでにロシアとの関わりを避け始める兆候がでているという。
ウクライナ欧州動乱 第2次東西冷戦の火薬庫 [amazon]