致死率約50%の新型ウイルス、治療薬発見か?
米国立アレルギー・感染症研究所のハインツ・フェルトマン博士らは、C型肝炎治療に使用される抗ウイルス薬「インターフェロンα-2b」および「リバビリン」の複合薬がMERS(中東呼吸器症候群)の治療に有効である可能性を、8日のネイチャー・メディシン誌に発表した。
【半数が死ぬ難病、動物実験で効果】
MERSは「SARS(重症急性呼吸器症候群)のいとこ」であり、インフルエンザのような発熱と呼吸困難の症状を伴い、臓器不全につながる可能性もある。各紙は既知の症例数を110程度、うち死亡例が50程度と紹介しており、致死率は約50%にのぼる。2012年9月に初めて確認され、大多数はサウジアラビアで発生、おそらくコウモリが起源と考えられている。ヒト間での伝染は難しいが、ラクダなどの動物が媒介しているとの説もある。
今回の研究では、6匹のアカゲザルをMERSウイルスに感染させ、うち3匹に対して8時間後、およびその後3日間定期的に、投薬を行った。その結果、投薬されていない3匹は症状が悪化したが、投薬された3匹は血液中のウイルス量が少なく、呼吸困難の症状がなく、X線検査によっても肺炎の兆候が全くなかった。
【まだバクチの域は出ず】
ただし、懸念点も指摘されている。MERSの動物実験において人間の代用になると考えられているのはアカゲザルのみであるが、症状は人間ほど重篤化しない。研究では、投薬も感染後早期に行われ、被検サンプル数も少ない。サウジアラビアの臨床例でも同じ処方がすでに使用されているが効果はなく、あくまで重篤化し入院に至る以前の、感染初期にしか有効でない可能性がある。
副作用もある。インターフェロンは不眠や抑うつを引き起こす可能性があり、リバビリンは赤血球・白血球に有毒である。ただ、慢性肝炎の治療は長期化するのに対し、MERSではウイルス複製速度の関係上、投薬に充分な効果があるならば短期間で済むかも知れないという。
現在MERSにはこれといった有効な治療法がないため、同論文は「早期介入として考慮されるべき」と主張している。同研究所のアンソニー・S・フォーチ所長は、「私がMERS患者の医者で、他に投与できるものがなければ、私は躊躇しないでしょう。疾患が進行すれば50%の致死率があるのです」と語った。