エジプト軍、国民に「反テロリズム」の大規模デモを呼びかけ 結果はどうなる?

 エジプトで24日、軍最高評議会のシシ議長が、国民に異例の「大規模デモ」の呼びかけを行った。その内容は、「(イスラム派の)暴力とテロリストと対決するための「権限」の付与」を求めるもの。すでに引き裂かれているエジプト国民の亀裂に、さらにくさびを打ち込むような同氏の発言が大きな波紋を広げていると、海外各紙は報道した。

 地元メディアによると、暫定政府の第一副首相を兼務するシシ議長は24日、軍式典で演説。「(全国民がデモに繰り出すことで)暴力やテロリズムへの傾倒があれば、軍隊や警察に、それと対峙するための権限が与えられるということを、世界中に示してほしい」と訴えた。

【揺れるエジプト国内】
 追放されたモルシ前大統領を支持するイスラム勢力への、あからさまな「テロ」呼ばわりに対し、同氏の出身母体、イスラム組織「ムスリム同胞団」は猛反発。「演説は内戦を呼び掛けたに等しい。これは完全なクーデターであり、エジプトを、軍と警察が支配する独裁国家に後戻りさせようとしているものだ」との声明を発表し、同じ26日に大規模デモを呼びかけた。モルシ氏追放以来、相容れることなく対立し続ける両者の、衝突による緊張が、再び高まっている。

 一方、6月30日の「反モルシデモ」に参加した左派、世俗派、イスラム派の団体では、対応が割れているとフィナンシャル・タイムズ紙は伝えている。

 デモのきっかけを作った「タマルド」は、軍を支持して全土デモを決めている。暫定政権の中心的な立場にあるエルバラダイ氏も、軍への理解を示す発言をしていると伝えられる。

 一方、モルシ氏追放に賛意を示した、光の党、世俗派、左派はもとより、一般市民の中にも、今回のシシ氏の発言は、国民の支持を背景に、無条件での全権限の委譲を求めるに等しいとして、「時計の針をムバラク時代に戻す」ものだとの警戒の声が広がっているという。

 さらに、専門家は、今回の反対意見の噴出は、「運動は2011年のムバラク政権転覆からの一連の流れであり、国民の望んだ民主主義によるものだ」という「現暫定政権の正当性」の根拠を覆すと指摘。軍が、選挙では「イスラム派」に勝てなかった「世俗派」や「左派」を取り込んで、巻き返しを図ったのでは、という論調を否定できなくなったとも述べている。

 権力掌握後、資金調達、暫定政権の立ち上げ、憲法修正などに矢継ぎ早に着手する一方、自らの正当性の検証をなおざりにしてきた暫定政権に対し、国民の見方が変わる可能性が浮き彫りになった形だ。

【カンディル元首相の現暫定政権への要請】
 一方、アルジャジーラは、今回のシシ氏の呼びかけに対し、モルシ政権で首相を務めたカンディル氏が呈した苦言を紹介した。同氏は、エジプトの政治危機を打開するための具体策を以下のように挙げたという。

・「反モルシデモ」後、6月30日に始まった、すべての逮捕・拘留者の解放
・逮捕者に対する法的手続きと、資産の凍結の中止
・7月8日、共和国防衛隊の施設における、「親モルシデモ」における多数の死者発生についての真相解明

 これらによって、現政権にたちこめる不透明感を払しょくするとともに、イスラム勢力や西側諸国・国連による解放の呼びかけを無視して非公開の場所に拘束を続けているモルシ氏についても、複数の人物による派遣団による健康状態の確認と、拘束場所の公開が必要だと指摘している。

【同胞団の弾圧は両刃の刃?】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、専門家の一種うがった意見を紹介している。

 シシ氏のスピーチは、イスラム教徒に、警察国家の再現という恐怖を与えているものの、逆に、それが同胞団を強化してしまう可能性もあるというのだ。

 「弾圧」されれば、同胞団はそれをたてにとって、より「悪くなる」資格を得てしまう。効果的に大義を振りかざし、民衆に訴えることができるだろう」、との指摘だ。

 実際、暫定政権に対し、モルシ氏の大統領への復権を求めて座り込み運動を続けてきた同胞団と、反モルシ政権のデモが衝突するケースが頻発しているエジプトでは、「謎の部隊」によるデモ隊襲撃が報告されているほか、あきらかに同胞団を「挑発する」目的のデモも散見されるという。

Text by NewSphere 編集部