エジプトで暫定内閣発足 ビブラウイ氏が迎える正念場とは?

 デモの拡大から、投票によって選出された初の大統領、モルシ氏が追放されたエジプトで16日、暫定政権の閣僚が宣誓式に臨み、暫定内閣が発足した。

【女性やコプト教徒も閣僚入り、しかしイスラム勢力は排除】
 特徴は、閣僚経験者や各分野の専門家が多いことで、外相に元駐米・駐日大使のファハミ氏が、財務相に世界銀行での勤務経験があるアフメド・ガラル氏が就任するなど、主要閣僚はいずれも専門分野に精通している人物が起用されたという。
 また、女性が3人、いずれも重要なポストに就いたほか、コプト教徒も3人閣僚入りし、モルシ前政権よりは「多様性」を重視した布陣となった。

 このように、エジプトが直面する「経済危機」を乗り切るために絶対的に必要な「専門性」と「経験」を兼ね備えているという点においては評価できる組閣だが、「実務家内閣」であるという印象と同じくらい強く、「イスラム勢不在」を感じさせたのは確かだったと、海外各紙は指摘している。
 さらに、今回の「モルシ政権転覆」の立役者である軍トップのシシ国防相が副首相を兼任することになったことも、「政治には関与しない」はずの軍の影響力の強化をうかがわせたという。

 マンスール暫定大統領のスポークスマンはこれについて、組閣においては誰も「排斥」されてなどおらず、イスラム勢力である、ムスリム同胞団やアル・ヌール党にも打診したと釈明した。
 対して、同胞団やアル・ヌール党は、これを否定した。ただし、仮に打診を受けたとしても、同胞団は「一切に正当性のない」内閣に与する意思はないと述べている。
 当初、軍の登場を歓迎し、純粋な「実務家内閣」を希望していたアル・ヌール党も、その後、軍や警察がモルシ派勢力と衝突し、51人の死者が出たことに反発し暫定政権に背を向けていた。今回の人事についても、「自らが非難を浴びせた前内閣と同じ轍を踏んでいる」と述べ、「権力の独占と、政敵の排斥は、国の分裂と、混乱と、不安定を深める」と非難しているという。

【いまだ対立、死者も・・・】
 おりしも、15日の晩から16日の朝にかけて、モルシ氏の釈放と復帰を訴え、モスクなどに座り込みを続けるムスリム同胞団らが当局と衝突し、7名の死者と260人以上の負傷者が出ていた。
 今回の人事についても、同団が反発を強めるのは必至で、専門家も、「勝ち組、負け組を鮮明化した」、「非」挙国一致内閣が新たな火種になるとの懸念を強めているという。

 なおアナリストは、ビブラウイ政権が「正当性」を認められるためには、不満を募らせる民衆に対し、迅速な結果を出してみせ、政府が、シシ氏率いる「軍部」から独立していると証明することが必須だと分析している。

【米国の対応は】
 一方、14日からエジプトを訪問中だったバーンズ米国務長官は、15日、カイロで暫定政権のマンスール大統領、ベブラウィ首相とそれぞれ会談した。
 その後の記者会見では、いかなる政治勢力も排除しない「包括的」な新政権の樹立と、これまでに逮捕、拘束したモルシ氏も含めたムスリム同胞団幹部の解放を「呼びかけた」という。

 フィナンシャル・タイムズ紙は米国高官の談として、米国の意図は、以下の条件を満たすことをアメリカは「希望」しているけれども、最終決定は「エジプト国民」にあり、アメリカは何ら「強制」はしない、と伝えることにあると報じた。

・文民政府の確立。
・透明性の保障。
・法による統治の徹底。
・挙国一致政府の実現という、エジプトが掲げた「理念」の再確認。

 アルジャジーラは、米国はこれまで、エジプトに対する(主に軍事費である)年間15億ドルの資金援助の停止を避けるため、慎重に、今回の政変に「軍事クーデター」のレッテルを貼らずにきていたと指摘。今回のバーンズ氏の発言は、その方向性を貫くために必要な条件を提示しつつ、最終責任はエジプト国民にあることを再確認したものだと分析した。
 ただしモルシ派らは、こうした日和見的な介入姿勢をよしとせず、バーンズ氏との面談を避けたと伝えている。

【厳しい財政の行方】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、「モルシ氏追放」後、アラブの石油・ガスの産出国が相次いで表明した巨額の資金援助によって、新政権が、IMFへの融資申請を棚上げする猶予を得たと指摘。
 これによって、融資の条件である、「痛みを伴う」補助金の削減などの「緊縮財政策」を先送りすることが可能になったと報じている。

 平常であれば、民意は「選挙」で計られる。しかし、今のエジプトでは、「デモ」だけが民意の秤だ。
 アラブ・マネーで稼いだ「猶予」で結果を出し、首の皮一枚でつながっている「正当性」を、民意で補強できるか。いよいよ、ビブラウイ政権が正念場を迎える。

Text by NewSphere 編集部