エジプト、揺れ続けるふりこ 怒りと憎しみの連鎖は断ち切れるのか?

 2年前の「中東の春」でムバラク政権が転覆した際、後に大統領に選出されるモルシ氏は「反逆罪とスパイ活動」の容疑によって投獄されていた。「革命」の動乱のなか、直後に自身がアルジャジーラに語ったように、「同胞の働きと助けによって」脱獄した。

 後に、選挙によって、議会ではムスリム同胞団を母体とする自由公正党が、大統領選挙ではモルシ氏が勝利し、「民主的手続きによって選ばれた」というお墨付きを得るとともに、この事実は葬り去られたかに思われた。
 しかし、軍部によってモルシ氏が追放され、主要な幹部への拘束や逮捕状の発行が行われるなど、ムスリム同胞団への圧力が刻々と強まるなか、2年前の嫌疑に再び焦点があてられていると、ニューヨーク・タイムズ紙は報じている。

 こうした「過去をほじくり返す」ことでモルシ氏追放やムスリム同胞団への弾圧を正当化するような動きは、同団の反発を招くと同時に、かえって人権主義団体の非難を招いていると、同紙は分析している。
 さらには11日、米国のサキ報道官が、一旦は、今回の動きを「クーデター」ではなく「エジプトの民意が国を動かした」との趣旨の発表を行い、アメリカが暫定政権に対する民意の裏付けを認めたかに思われた矢先、早くも反転模様がうかがえると伝えている。

【報道局の勢力移行が示唆するエジプトの「脱イスラム化」】
 一方、フィナンシャル・タイムズ紙は、エジプト国内の「脱イスラム化」が進んでいる証として、アルジャジーラの凋落に焦点を当てた。
 脱獄後のモルシ氏の「声」を伝えたことでもわかるように、アルジャジーラは、中立・公正を謳いつつ、カタールの首長がスポンサーであるというその成り立ちからして、中東の「イスラム化支援者」という顔を持っていた。「アラブの春」以降は特に偏向化が進み、ムスリム同胞団寄りの報道が目立つようになっていたという。
 それに対する反発として、今回のデモでは反モルシ陣営の中心地となったタハリール広場に、アルジャジーラのロゴの脇に血まみれの手形と、同紙の「意見、そして別の意見」というスローガンをもじった「報道製造局:扇動、そして別の扇動」というスローガンを付した垂れ幕が掲げられたとも伝えられる。

 8日、軍・内務省治安部隊と、モルシ前大統領支持派の対立により少なくとも51人が死亡した発砲事件に関する会見においても、記者たちのなかから、「アルジャジーラは出ていけ」との声が上がり「追い出せ」との叫びのなかで記者たちが退席する一幕があった模様。局内部からも偏向報道への離反が生じ、辞職者が20人以上に及んでいるようだ。
 これに伴い、2年前は「反革命」的姿勢に非難を浴びたアルジャジーラのライバル、アラブ首長国連邦系のアルアラビーヤが台頭しているとフィナンシャル・タイムズ紙は伝えている。
 しかし専門家は、両放送局とも「同類」であり、しょせん、彼らにとっての「報道」とは、「真実」を伝えるのではなく「自局の立場や意見」を伝える手段であると指摘している。

【「クーデターと堕ちた民主主義」に絶望する市民】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「中東の春」に寄せた希望が大きかった分だけ、今回起きた政治的動乱に深く失望した一般市民の声を伝えている。「今回起きたのは、明らかに軍事クーデターだ」「せめて、再選挙といった「民主主義的」手続きによってモルシ氏を排除すべきだった」などの批判は、軍部が下支えする暫定政権への不信感に直結し、非イスラム教徒のなかにも、次の選挙では「反暫定政権という意思を表明するために」、自由公正党を支持するとの声が上がっているという。
 こうした市民は、デモ行動などに参加しない層に属していることが多いため、規模は明らかではないが、街角インタビューなどが示唆する割合は決して少なくなく、正常化を目指す暫定政権の思わぬ障壁となりかねないことを、同紙は示唆している。

【揺れ続けるふりこと憎しみの連鎖に歯止めはかけられるのか】
 イスラム化から、脱イスラム化へ。アルジャジーラから、アルアラビーヤへ。しかし、大きく動いたふりこの動きを逆行させようとする力の躍動も伝えられるエジプト。
 指導者層を拘束され、勢いをそがれたムスリム同胞団はその憎しみを、長年敵視してきたコプト教徒に向け始めているという。コプト教徒は、今回のデモ行動に果たした役割が大きいとはいえない少数派に過ぎない。それにもかかわらず、一部では暴徒化した団員が、教会や住宅を襲って焼き討ちにしたり、デモに参加したコプト教徒を無残に虐殺するなどの蛮行が報じられている。
 偏向と憎しみと暴力の連鎖への「くさび」は、どこにあるのだろうか。

Text by NewSphere 編集部