エジプト経済に国内外から明るい兆し?海外紙の分析
2011年のムバラク政権崩壊後、モルシ氏が大統領に就任したあとも、エジプト経済は長らく低迷してきた。相次ぐ政情不安によって、同国の主要な財源である観光業が冷え込んだことが一つ。そして、石油・ガス資源が潤沢とはいえない同国にとって必須の、エネルギーへの多額の公的補助を見直すことで再生可能エネルギーの開発を進めるといった課題を消化することができなかったことが一つの要因だという。
ガス、石油会社への不払い額がかさみ、国民生活が圧迫され、外貨準備高が激減するなか、モルシ大統領はIMFに48億ドルの融資を要請した。しかし、軍指導部の介入もあり、融資の交換条件である痛みを伴う緊縮財政が実施できないまま調印は遅れ、モルシ政権を支援するカタールからの財政援助頼みの低空飛行を続けていた状況だった。
クーデター直後、外貨準備高は、危険水準とされる輸入コスト3ヶ月分ぎりぎりの状態まで落ち込んだ。フィナンシャル・タイムズ紙は、アナリストはエジプト経済の現状を、「今後2年間で230億ドルの資金不足に直面する」と分析していると報じた。
【エジプト経済に射す希望の光】
しかし、マンスール暫定大統領による新体制作りが急がれ、「非イスラム」陣営であるビブラウイ氏が首相に就任するにつれて、新体制を支持する湾岸の産油諸国が相次いで財政支援を表明。
サウジアラビアからの50億ドル、アラブ首長国連からの30億ドルの支援に次いで、クウェートがエジプト中央銀行への預金20億ドル、支援10億ドル、石油と石油製品10億ドル相当の、計40億ドルの巨額の支援を申し出たという。
わずか2日間のうちに集まった120億ドルの資金は、EGX30株価指数を3.3%も上昇させた。専門家は、これが同国に「国内外の直接投資を安定させ、市場心理を変えうるだけの優れた経済プランを練る」6ヶ月の猶予を与えたと分析している。この期間に、ビジネス優遇減税やインセンティブを実行し、緊縮財政などのIMFの条件もクリアして「どうしても必要な」融資を受けなければならないという。
【ビブラウイ氏の人物像】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、その難関に取り組む人物として、首相に任命されたビブラウイ氏に注目した。 ビブラウイ氏はパリ大学で経済を学んだ経済の専門家で、2011年はじめにムバラク政権を倒した「革命」後、軍による暫定統治下で財務相を約半年務めた経歴がある。
特に、同紙が注目したのは、ビブラウイ氏のリベラルで実際的な思考と決断力だ。たとえば、同紙は軍部リーダーがIMFへの融資を棚上げさせた当時のインタビューで、同氏がこれを「明らかな失敗だった」と歯に衣着せずに切り捨てる一方、「しかし、過去にこだわっている場合ではない。今できる最善策を練らなければ」と述べたことを紹介している。
現在も、ムスリム同胞団やヌール党などのイスラム勢力にも新体制に加わるよう促す一方で、「国民の声に耳を傾け、期待に応えるのはもちろんだが、複数の選択肢があり、決断を下さなければならない以上、誰もを満足させることはできない」と言明するなど、同氏の実際的な面がよく出ていると指摘している。
【ムスリム同胞団は「罪人」なのか?!】
しかし、明るいニュースばかりではない。
アルジャジーラは、軍部がムスリム同胞団への圧力を強めていると伝えている。エジプトの国営中東通信が、ムスリム同胞団の最高指導者であるムハンマド・バディーウ氏や自由公正党の党首であるエリアン氏など、複数の幹部に逮捕状が出されたと報じているという。容疑は、51人の死者を出した-、ムスリム同胞団と警官隊の衝突において暴力をあおったことなどだが、詳細は明らかにされていない。逮捕状を出された幹部らは現在、カイロ北東のムスク内にこもっており、何千人もの支持者が周囲を取り囲んでいるために警官隊も近づけない状況だという。
警官隊とムスリム同胞団の衝突については、アムネスティ・インターナショナルも、「無防備な民衆に対し、警官隊が過剰な武力を行使したと考えられる」との意見を表明している。
また、ビブラウイ氏は、2011年10月の財務相在任当時、エジプト兵が少なくとも26人のコプト教徒を殺害したときに、辞職を願い出た経歴を持つ非暴力主義者でもある。実際、この事件については、「何が起こったのか。なぜそれほど多数の犠牲者を出したのかを知らなければならない」と述べているという。
民主的手続きによって選ばれたはずの、与党自由公正党と、モルシ大統領。その支持者を武力でねじふせようとしている現状。それが、未来に進もうとするエジプトの行方にどう影を落とすのか。未だ、予断を許さない。