エジプト軍、大統領に「48時間以内」の退陣を求める そのねらいと影響は?

 エジプトで30日から始まった反大統領デモは、市民の折からの生活不安や経済的困窮などの不満を巻き込んで、反政府勢力ら主導者も驚く規模に急成長した。一部の過激派によって、大統領の支持基盤であるムスリム同胞団の本部が焼き討ちにされたほか、発砲事件の発生によって、これまでに少なくとも15人の死者と多数の負傷者が発生しているという。
 こうした治安の悪化を受けて、ついに、軍部トップのシシ国防相が立ち上がったと海外各紙は伝えている。シシ氏は1日、国営テレビを通じて、モルシ政権に対し「48時間以内の事態収拾」を要求。「デモ隊の要求に応えることができなかった場合、軍部が今後の政治プロセスに関する行程表を用意せざるを得ない」と、主導権の確保を匂わせた。
 すわ「軍事クーデター」かとの緊張が走ったものの、その後、シシ氏は再度声明を発表し、その可能性を強く否定した。2011年のムバラク政権崩壊後、暫定統治に乗り出した軍の役割を再現する考えはなく、目的はあくまで「対立する政治勢力を協調に導くため」にあるとしている。
 対してモルシ大統領は、2日未明、軍の最後通告を拒否し、和解に向けた自らの計画を堅持する意向を表明した。

【親モルシ派の意向】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、モルシ政権は、「選挙によって政権を担っている」という正当性を前面に出し、屈服しない構えだという。
また、オバマ大統領が1日のモルシ大統領との電話会談の折に、今後もモルシ政権を「正当なエジプトの政府」として対応していくと言明したとも書き込まれた。
 一方、モルシ氏に近い人物からは、「オバマ政権の覚えがめでたくなければ」軍部がこのような最後通牒を出す「はずがない」との発言も飛び出している。
 ホワイトハウスによると、オバマ大統領はモルシ大統領に対し、彼らの懸念に迅速に対応する姿勢を示すよう促し、現在の危機は政治的なプロセスを通じてのみ解決できると強調した、としている。
 
 一方、モルシ氏の支持基盤であるムスリム同胞団は、こうした動きに反発を強め、力で政権交代を実現させたければ「我々の屍を越えていけ」と、徹底抗戦の構えを見せている模様だ。

【軍の思惑】
 こうした軍の動きについて、フィナンシャル・タイムズ紙は、「軍部」が長年、エジプトにおいて暗然たる権力を握ってきたことを指摘し、「軍の台頭」と、「イスラム勢力の反発」が高じれば、内戦にも発展しかねないと警鐘を鳴らしている。
 ただ、ムバラク政権崩壊後とは異なり、現在はモルシ氏が成立させた「憲法」があり、「法」がある。これを遵守しながら武力を行使することはほぼ不可能であるため、一部には、「軍事クーデターとしか言いようがない。一度は失敗したといえども、返り咲きを目論んでいるのだろう」と見る向きもあるようだ。
 ただし、目下、反モルシ派の歓声を浴びているといえども、こうした一歩間違えば犯罪者のレッテルを貼られかねない「介入策」は、シシ氏にとっては「両刃の刃」ともいえる。同氏に対し、「ムスリム同胞団に甘すぎる」との批判があったことを挙げ、同氏の目的が「救国」のみならず「保身」にもあるとの分析もなされているようだ。

【求心力を失うモルシ大統領】
 報道によれば、1日、モルシ政権の閣僚5人がデモ隊と連帯するとして辞表を提出したという。こうした一連の動きは、ムバラク政権末期を彷彿とさせ、唯一の違いは今回のほうがはるかに「スピード感」があるという点のみだとウォール・ストリート・ジャーナル紙は指摘している。
 さらに、ムスリム同胞団と連携し「イスラム勢力」を形成していたサラフィー派も、「早期の大統領選挙を歓迎する」と声明を発表。モルシ氏はいよいよ追い詰められているようだ。

【エジプトの未来は—-内戦に発展か? 民主主義の醸成か?】
 わずか2年前、軍の追放を叫んで街路を練り歩いた人々は、1日のシシ氏の発表の後、歓呼の声を上げた。軍部の専横に不満をぶつけた世俗派の政治家も、モルシ氏追放への軍の介入を歓迎しているようだ。
 こうした「所詮軍頼み」とも見える情勢を、エジプトの民主主義の「危うさ」と見る向きがある反面、ニューヨーク・タイムズ紙は、「軍であれ、イスラム主義であれ、およそ「専横」と呼ばれるものに反発する精神こそ「民主主義の醸成」だとして歓迎する見解を紹介している。

 「48時間」の期限が切れた後、モルシ氏とムスリム同胞団は—-軍は—-反モルシ派は—-?エジプトの未来が注目されている。

Text by NewSphere 編集部