米政府に宣戦布告のスノーデン氏 勝機はあるのか?

 アメリカ政府が大量の個人情報を秘密裏に収集していたことが明らかになり、その事実を暴露した人物の素性と生の声が世間を賑わせてから数日。事件の波紋が広がっている。
 海外各紙は、それぞれの切り口から事態を分析した。

【スノーデン氏、香港で宣戦布告】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、香港に潜伏中とみられる渦中の人物、エドワード・スノーデン氏の続報を伝えている。
 ガーディアン紙によるインタビュー映像が世に出たあと、「香港」という、同氏の選んだ「逃亡先」について、複数の事情通による「選択ミス」との指摘が伝えられていた。香港が米国との間に犯罪者引渡しの条約を締結しており、過去にも多数の強制送還を実施していることから、米国が正式に逮捕状を出したり、身柄の引渡しを求めた場合には、拘束や引き渡しを免れられないと見られるためだ。

 しかしこのほど、スノーデン氏は地元の英字日刊紙、サウス・チャイナ・モーニング・ポストのインタビューに応じ、そうした意見に反論したという。
 同氏は「私が香港という場所を選んだことを間違いだと考える人は、私の意図を誤解している。私がここにいるのは、法の裁きから逃げ隠れするためではない。犯罪を暴くためなのだ」と語り、米政府による広範な情報収集の標的として、香港や中国本土のコンピュータも含まれていたことを明らかにした。今後も香港にとどまり、米国政府による「プライバシーの蹂躙」と戦う所存のようだ。

 ただし、同氏のこの選択について、専門家は、「結局は強制送還される」との意見だ。政治亡命を申請すればより多くの時間が稼げるのは間違いないが、申請時点で身柄を拘束される見通しが強いという。実際、すでに同氏が当局の監視下にあることは間違いないと見られている。

【香港政府の思惑】
 ニューヨークを訪問中の香港行政長官の梁振英氏は「現行の法を遵守するのみ」と発言しており、香港政府としても、特別な措置を取る公算は低い。
 香港には、政治犯が拷問を受ける危険がある場合には強制送還しない場合もあり、たとえば、ウィキリークスに米政府の機密情報を漏えいしたとして訴追されたブラッドリー・マニング氏のケースがこれに当たるが、スノーデン氏の場合には民間人であることから、これには該当しないという。
 結局、中国当局が介入しない限りは同氏が強制送還を免れる可能性はないと見られ、それを左右するのは、同氏がどれほどの情報を隠し持っているかだとされる。
 ただし中国にとっては、今回スノーデン氏が「米国が中国のコンピュータをハッキングしていた」という発言したことで、十分米国を攻撃する材料を手に入れたといえる。むしろ同氏をかくまうことで、先のトップ会談で実現した友好ムードを台無しにする可能性は限りなく低いと見られているようだ。

【アレクサンダー長官、NSAの正当性を訴える】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、批判にさらされている米国家安全保障局(NSA)キース・アレクサンダー長官の、12日の上院歳出委員会での公聴会における証言について報道した。
 同氏は、明るみに出た監視プログラムについて、同国の安全保障上、同氏の一存でデータの詳細を明かすことはできないと前置きしつつ、数十件に上るテロ行為の阻止に寄与したと述べた。なかでも、2009年の、ナジャブラ・ザジ容疑者によるニューヨーク市地下鉄爆破テロ計画と、同年のデビッド・ヘッドリー容疑者による、デンマークの新聞社を狙ったテロ計画をその代表例として挙げたという。
 同氏は、NSAはプライバシー権の保護を十分に尊重しており、国民の信頼を維持できる方法で活動していると強調。「サイバー空間を押さえる」ことが、国民の安全保持のために必要なのだと訴えた。
 これに対し、議員は概ね支持に回っている。一方、人権保護団体は懸念を表明しており、有力団体である米自由人権協会(ACLU)は、電話のデータ収集プログラムについて、公民権の侵害であるとして政府を相手取り、訴訟を起こした。

【EUの憤りの源泉が明らかに 反FISA法を骨抜きにしていたオバマ政権】
 一方、フィナンシャル・タイムズ紙は、2012年1月、EUの反FISA条項と呼ばれていた、アメリカの外国諜報監視法(FISA)に対抗しうる条項が無効化された背景に、オバマ政権の積極的なロビー活動が存在したことを、独自調査に基づいて報道した。
 今回、ネットや電話の監視プログラムの存在が明らかになった後、ドイツをはじめEUでは、アメリカの過度の諜報行為に対する懸念が表明されたが、その背景には、こうした事情があったようだ。

 アメリカ政府は、ジャネット・ナポリターノ国土安全保障長官やケリー国務長官の兄弟であるキャメロン・ケリー氏を何度も派遣し、件の「第42条」の無効化を強く働きかけていたという。
 最終的には、欧州議会議員たちは、懸念を抱えつつ、当時の懸案事項だった貿易協定の複雑化や、EU内の大手通信機関のほとんどが米国内に本社を構えており「第42条」の存在意義が薄いことなどを理由に、無効化を呑んだ形だと伝えられる。

 結局、最も「救われた」のは、二律背反の矛盾に苦悩せずに済んだ通信会社と言えるだろうが、今回の一種の「裏切り」によって、欧州議員の態度が硬化する可能性もあると、同紙は伝えている。

Text by NewSphere 編集部