北朝鮮、韓国に「対話」提案 その理由とは?

 北朝鮮と韓国が近々、両国間共通の懸案事項について、2年超ぶりの当事者協議を行う予定であることが明らかになった。

 昨年末から北朝鮮は、国際社会において孤立の一途をたどってきた。相次ぐミサイル発射実験や核実験の強行と、それに対する国連制裁決議、米韓の共同演習。反発を強めた北朝鮮は、核戦争すらほのめかす威嚇を行なっていた。さらに南北のホットラインを閉鎖し、南北協力事業である開城工業団地から従業員を撤退させ、同団地を閉鎖。こうした動きに対し、5月には、最大の後ろ盾である中国の国有商業銀行が、北朝鮮への送金業務を停止した。

 アメリカは、北朝鮮の核開発停止が実現しないかぎり、「報酬」は与えないとの強硬姿勢を維持してきた。
 一方韓国政府は、開城団地の突然の閉鎖により、残さざるを得なかった韓国企業の原材料や完成品の引き上げなどを求め、粘り強く対話を求めてきた。
 対する北朝鮮は、最大の同盟国である中国に対しては、金正恩第一書記の懐刀と称される特使を派遣するなどの配慮を示したものの、基本的な強硬姿勢には変化の兆しなしと見られてきた。

【突然の融和姿勢】
 しかし6日に突然、北朝鮮から韓国に対し、開城団地の操業再開などの問題を話し合うことが提案されたという。かねてより協議を呼びかけてきた韓国側はこれを歓迎、12日のソウルでの閣僚級協議を提案した。
 北朝鮮もこれに即応し、12日の協議に備えて、8日に開城で事務レベルの話し合いを行うことが提案された。
 さらには、米韓の軍事演習に反発して自ら切断した南北間の連絡ルートの回復や、もう一つの南北協力事業である金剛山観光事業の再開(北朝鮮軍人が韓国人観光客を射殺して以来中断)についても話し合うことを提案しているという。
 また会談では、朝鮮戦争による離散家族再開事業の再開など、人道問題にまで踏み込まれるとの示唆もある模様だ。

【諸外国の反応】
 韓国の朴槿恵韓国大統領は、「南北当局者会談で開城団地問題が解決され、南北間の信頼醸成をもたらす道が開かれるよう期待している」と歓迎の意を明らかにした。
 オバマ政権も南北対話を歓迎するとの声明を発表している。国務省のサキ報道官は、「アメリカはこれまでずっと、朝鮮半島南北の関係改善を支持してきたし、現在もそうだ。今後も、同地域の同盟やパートナーと、緊密に連携していく」と述べた。

【北朝鮮の真意】
 突然の方針転換の背景について、海外各紙は分析している。
 ニューヨーク・タイムズ紙は、この転換の発表が、オバマ大統領と中国の習近平国家主席との対談直前だったことに着目。北朝鮮の核攻撃の脅威が俎上に載せられるとの見通しに反応したとの見解だ。
 また、中国が、長年に渡る庇護にも関わらず、同国による説得を蹴るかのような北朝鮮の態度に苛立ちを募らせていたとも伝えられている。長年、盾となって北朝鮮を守ってきた同国が、国連の制裁に協調したばかりか、北朝鮮にとって最大の外貨流通窓口であった国内銀行の取引を停止したことも、その表れだったとされている。
 フィナンシャル・タイムズ紙は、アメリカが以前、北朝鮮との直接対話において、核開発停止の確約と引換えに援助を行う決定を下した直後、約束を反故にされた手痛い経験があると指摘。直接交渉に用心深くなっていると伝えている。
 そのため、韓国と北朝鮮の対話の促進を求めており、6カ国協議などはその後とする方針のようだ。そうした経緯から、同紙は、北朝鮮が韓国に対話を申し入れた背景に、アメリカの意向を読み取っている。

 また、それとは別に、経済制裁に喘ぐ北朝鮮にとっては、開城工業団地で労働者が韓国企業から得る年間9千万ドルの給与(その大部分が政府の手に渡ると考えられている)や、金剛山の観光事業が生みだす多額の「交換可能な」外貨が魅力的だとの思惑も呈示された。

【北朝鮮と関係国の今後】
 しかし、北朝鮮の突然の歩み寄りは、手放しで歓迎できるものではないと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
北朝鮮の融和姿勢によって、米韓がこれまでの「核開発の中止なくして対話進展なし」との姿勢を貫けるかが問題になるためだ。
 すでに韓国の柳吉在統一相は、北朝鮮が提案したあらゆる問題について協議する用意があると述べる一方、北朝鮮の核問題に関しては、当局者会談では棚上げにされる見通しだとされる。
 このまま北朝鮮のペースに乗せられ、結局は、同国のみに利する結果になることが懸念されているようだ。アメリカも、今後の対応に苦慮する可能性があると示唆されている。

Text by NewSphere 編集部