各国の外交的思惑がせめぎあうシリア 和平はまだ遠く?
シリア内戦長期化の原因の一つは、関係各国の思惑が複雑に絡み合っていることといえる。先日も、国連総会決議が採択されたものの、各国の足並みは揃わず、和平よりも外交的な駆け引きばかりが目立った。
海外各紙はそれぞれの動きに注目し、シリア情勢の混迷を浮き彫りにした。
【カタール-アラブの盟主を目指すも、バラマキを非難される】
フィナンシャル・タイムズ紙は、過去2年で30億ドルもの資金を反体制派支援に投じたというカタールに注目した。
カタールは世界第3位の埋蔵量を誇る天然ガス大国であり、潤沢な資金を元に、武器供与はもちろん、アサド派の亡命者に年間5万ドルとも言われる多額の生活費を援助したり、反体制派の兵士に配るなどしてきた。
その思惑は、アラブでの存在感を強め、国際的な認知度をアップすることにあるとフィナンシャル・タイムズ紙は分析している。実際、同国には、2011年のリビアにおけるカダフィ政権の崩壊においても、同様の手法で、反体制派に加担した経緯があるという。
しかし、こうした実際的、ご都合主義的な理由による同国の行動は、地域の二極化を招き、宗教的・政治的な対立を深めているとして、厳しい批判を招いているようだ。あまりにも散発的な支援が、かえって反政府派の分裂を招き、混迷を深めているとの意見もある。さらに、安定したルートを確立しないままに供与している武器が、アルカイダ系グループの手に渡る危惧も指摘されていた。
こうして、カタールが非難を浴び、援助の手を緩めたすきに、「アラブの盟主」をめぐってライバル関係にあるサウジアラビアが第一支援国の座に躍り出た模様だ。同国には、カタールよりも安定したルートがあり、確実な武器援助が可能なのだという。
同紙は、西側諸国が反体制派への武器供与に二の足を踏み続けていることが、カタールやサウジアラビアやトルコといった、中東の支援国への依存を強めていると指摘した。
【ロシア-アサド政権に高性能対空ミサイルを販売】
ニューヨーク・タイムズ紙は、シリアのアサド政権と強い関係を持つ、ロシアのさらなる武器納入の動きに注目した。同紙によると、ロシアは、射程距離300キロの対艦巡行ミサイル「ヤホント」に加え、さらに高性能のロシア製対空ミサイルシステム「S300」を輸出した模様だ。
これについてロシア筋は、シリアで反体制派運動が本格化する前に締結された売買契約を遂行しているのみだとの説明を繰り返している。
こうした強力な武器の納入は、アメリカからの強い中止要請をよそに敢行されたという。実際、他国が海洋から反体制派を支援することや、飛行禁止区域を設定することを困難にすると見られている。
アメリカ側は、この動きに、「反体制派へのアメリカの協力を制限する狙い」を見て、警戒を強めているようだ。ケリー国防長官は繰り返し、「アサド退陣」を念頭に置き「移行政府」を樹立することを目指すと述べている。そのために、権力の座にしがみつくアサド氏の「計算」を狂わせたいとの意向だが、イラン、ロシア両国からの強力な武器の流入は、反対に、アサド氏の政権維持の自信を深めさせるだろうと見られている。
【ヨーロッパ諸国-イギリス、フランス主導で反体制派への武器供与に傾くも、概ね様子見で一致】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、シリアに対する武器禁輸措置の解除をめぐる、EU内の折衝を紹介した。
アメリカが5月初頭から反体制派への武器供与を検討し始めたのに対し、EUは半年に渡ってその是非を論議してきた。現在の武器禁輸措置が6月1日で失効することを受け、その延長か、緩和かが問われていた。
これについては、イギリスが強硬に緩和を主張し、フランスなどの協力を得ながら、加盟各国の説得に当たってきた。その主張は、反体制派への武器供与のみが、現在の暴力の連鎖に歯止めをかけられる、というものだ。
しかしほとんどの国は、ロシア・アメリカのお膳立てによる、6月のシリア関係国会議の行方を見定めずして、禁輸を解くのは時期尚早との考えで一致しているようだ。
フランスでさえ、反体制派の暴走に対する懸念や、平和的解決の可能性から、ここ数週間は様子見へとスタンスを変えつつある。結果として、フランス、ドイツを含む主要国から、とりあえず1ヶ月間は禁輸措置を延長するとの提案がなされている模様だ。
ただし、EU内には、6月のシリア関係国会議がまったく実を結ばないのではという悲観的な見通しもあり、同紙は、その場合には、一気に武器禁輸が解除される可能性もあると指摘している。