バングラデシュで縫製工場の事故相次ぐ 政府の対策は有効か?

バングラデシュで縫製工場の事故相次ぐ 政府の対策は有効か? 「世界第二の縫製工場」バングラデシュで、政府が18の縫製工場に対し、安全対策に違反していることを理由として、一時的な閉鎖を命じた。政府は、国内の縫製工場5000箇所、すべてを改めて査察する、「皮切り」であると意気込み、工場の持ち主に対し、工場で働く労働者に、閉鎖している期間中の賃金を払い続けるよう命じたという。

 こうした動きは、先月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で、縫製工場が入る8階建ての建物が崩落した事故により、海外の小売業者や国内の労働団体からの抗議が噴出したためと見られている。崩落事故による死者数はついに1000人を超え、同国史上最悪の産業事故となった。

 さらに9日未明にも、最新の縫製工場で火災が起き、8人が犠牲となった。ただしこの火災は、問題となっている建築上の安全基準違反があったわけではなく、アクリル製品の燃焼によるガスの発生が窒息原因となった不幸な事故だと伝えられている。とはいえ、同国の縫製業へのさらなる打撃となったのは間違いないという。

【悪者は誰だ-政府か、業者か、海外企業か?】
 バングラデシュでは、この種の事故が起こるたびに、対策の必要性が叫ばれてきた。安全対策を怠る工場主はもちろんのこと、規制を厳格化しない政府への怒りもきこえる。
 さらに、工場主がきちんと対策が取れるように、海外の小売企業に対して正当な卸値の支払いを求める声も大きいという。加えて、海外小売企業が、そもそも危険な操業状態にある工場に発注することも、しばしば非難されてきた。

【大手企業の工場も閉鎖】
 バングラデシュ政府は、18の工場閉鎖についての詳細は明かさなかった。ただしウォール・ストリート・ジャーナル紙が労働省の文書を閲覧したところ、18中15の工場は中小企業の所有だったが、残る3工場は、同国ナッサ・グループ所属だと明記されていたと報じられた。
 ナッサ・グループは衣料メーカー最大手であるだけではなく、金融、建設、農業の各分野にも進出しているバングラデシュ最大級の企業。同グループのナズルル・イスラム・マズムデル会長は、数多くの役職に就いており、バングラデシュ銀行協会の会長も務めている。
 しかも、労働省の査察担当者は、同グループ所有の3工場が閉鎖された理由を、「明らかな亀裂があるため」としており、「修復不可能で移転すべきだ」と述べているという。なお、ナッサ・グループのコメントは得られていない。

 同グループは、ウォルマート、シアーズなど、米大手小売業者に製品を納入していた。ウォルマートは同グループの工場閉鎖についてはコメントせず、シアーズは構造上の問題があったことを知らなかったと述べているという。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、このような大手企業が所有する工場ですら閉鎖を免れないことが、同国縫製業界の問題の根の深さを物語っており、取引を望む海外の企業にとっての難しさであることを示唆している。

 過去10年間、バングラデシュでは、何十件もの工場火災などの事故が起こり、何千人もの死傷者が出ている。しかし、裁判所で有罪となった工場所有者は1人もいない。政府の取り組みが、こうした悲惨な事故に歯止めをかけるきっかけになりうるのかが注目される。

Text by NewSphere 編集部