イタリアのレッタ新政権、緊縮から転換 海外紙が分析する成功のカギは?
28日、ローマの大統領官邸で就任宣誓式臨み、正式に発足したレッタ新内閣。番狂わせの2月末の総選挙後、迷走と難航の「政治的空白の2ヶ月」を経てようやく、イタリアの「大連立政権」が発足した。
レッタ新首相が属する中道左派・民主党とベルルスコーニ元首相の中道右派・自由国民の二大勢力を軸に、モンティ前首相の中道連合が参加する連立政権の行方には、期待と不安の両方が寄せられている。
海外各紙は、30日の上院での承認を控え、レッタ首相が29日に行った所信表明演説をとりあげ、景気の低迷、高い失業率、EUから課せられる財政規律など、山積する難題に、一枚岩とは言い難い布陣でいかに臨むのかに注目した。
【緊縮から一転、経済成長戦略へ】
レッタ氏は、「財政再建だけではイタリアは死んでしまう。成長政策をこれ以上先延ばしにすることはできない」と言明。モンティ前実務家内閣が予定していた不動産税の一時的徴収を停止、さらに7月に実施見込みだった付加価値税の引き上げの撤回を発表した。
フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、高い失業率に苦しむ女性や若者などに対し、奨学金の充実や、若者を雇用した企業への税法上の優遇措置の設立などによる援助を行っていく考えを示した。
「緊縮財政」から「成長戦略」への戦略の転換を鮮明にし、「緊縮による赤字削減」を基調とするドイツのメルケル首相の路線に背を向けたかに思える同氏だが、同時に、新政権がEUとその結束を重視すると強調。EU諸国に示した財政再建のコミットメントは堅持するとの意向も示している。これについては、今週ブリュッセル、パリ、ベルリンを訪問し、メルケル首相・EU全体に、自身の成長戦略を説明すると述べている。
こうした動きに対する好感を反映し、イタリア国債は2010年10月以来の低い利回りを示したという。
【厳しい現状】
しかし、各紙とも、レッタ新首相の今後が茨の道であるという見通しを共有している。
<国内、党内の不信感>
今回、レッタ氏が思い切った減税案を呈示した背景には、2月の総選挙におけるベルルスコーニ氏の躍進を下支えしたものが、EUの「覇者」ドイツの緊縮圧力に対する、民衆の反発だったことがある。しかも、「連立」への不信感は国民に根強く、41%という低支持率として現れているという。さらに「不信感」は新首相のお膝元である民主党内にも渦巻いている。党内左派には、「自由国民」が突きつけた連立の条件である「不動産税の撤廃」を飲む格好になったことを「迎合」として、あからさまに批判する動きもあるという。
<方針を支える財源はどこに?>
特に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が問題視したのは、戦略や理想が高らかに謳われた反面、「実現策」がほとんど触れられなかった点だ。増税廃止による60億ユーロはどこから捻出されるのか。景気へのテコ入れに必要な財源はどこにあるのか。EUとの約束をどのように守っていくのかについては、首相はほとんど語っていない。
こうした背景から、専門家のなかにも、新政権が短命に終わるとの厳しい見方が少なくないという。
【誠実な「融和の人」と評される人柄】
一方、ニューヨーク・タイムズ紙は、近い友人、知人筋から「この局面を打開できるのは彼しかいない」と熱い期待を寄せられるレッタ氏の人柄や経歴に注目した。
「禁欲的とも言えるほど真面目で誠実」であり、「異論を取りまとめ、異なる背景を持つ人々の調和を計ることに長けている」と評される同氏。その人柄は、当初所属していたキリスト教民主党が、内部の汚職疑惑などで崩壊した後も、欧州内のキリスト教民主主義者とのつながりを保ち、リーダー的存在として活躍、32歳で当時のダレーマ政権に欧州問題担当相として入閣、 さらに、産業相、欧州議会議員などの要職を歴任するなかで培われたものだという。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、レッタ氏の細やかな気遣いに注目している。同氏は、不動産税を棚上げして自由国民を立てつつ、「年内に最終的なあり方を定める」と自党の主張を留保し、モンティ前首相の緊縮方針をも「それあったればこその今の転換」と持ち上げることを忘れなかった。同紙は、たとえ新政権が短命に終わったとしても、同氏の評価は下がらないとの見方を示した。
融和と協調と断行を旨とするというレッタ新首相の舵取りがイタリアをどこに導くのかに、注目が集まっている。