ボストン・テロ事件の動機とは?海外紙が容疑者兄弟の過去を分析
全米を、そしてボストン市内を震撼させたマラソンテロから5日。事件は急展開し、逃亡と銃撃戦の末に容疑者の兄は死亡、弟は身柄を拘束された。
安堵と歓声に包まれる中、事件発生の背景が少しずつ明らかになると同時に、現在重傷で取り調べができない弟の裁判の行方や、事件発生前に兄に取り調べをしていたFBIに対し、注目が集まっている。
どこにでもいる移民の兄弟に、何があったのか?同様のテロ(未遂)事件が続く背景は?FBIは事前に彼らの行動を止められなかったのか?各紙は、独自の視点からそれぞれの見解を述べている。
【容疑者の現状と裁判の行方】
弟ジョハル・ツァルナエフ容疑者は、ボストン郊外ウォータータウンの住宅敷地内ボートで、数時間籠城を続けた末に拘束された。ジョハル容疑者は、兄タメルラン容疑者が死亡した際の銃撃戦で喉に重傷を負い入院中で、筆談以外のやり取りが出来ない状態だという。
今後の裁判の行方に関して、フィナンシャル・タイムズ紙は法的観点から論じている。
事件が発生したマサチューセッツ州は死刑制度を設けていない。ただし本件は、最高刑が死刑の連邦法が適用される可能性があると報じられている。
オバマ政権はジョハル容疑者に対し、黙秘権があることを一定期間伝えないで取り調べに入る方針を示している。これを米議員やニューヨーク前市長らは支持。「アメリカに対する戦闘要員」として軍事裁判にかけるべき、という声もある。もっとも、これに対しては人権派から反対の声が挙がっている。
【容疑者の過去】
タゲスタン(ロシアに対する分離派の中心的存在)で生まれ、その後数ヶ国を経てアメリカに移住したツァルナエフ兄弟は、チェチェン共和国をルーツに持つ。大学に進学し、ボクサーを目指しながら結婚もしていた兄と、高校で人気者だった弟ジョハル。ニューヨーク・タイムズ紙は、表面上は特に問題の見られなかった彼らに、人生のある段階で起こるアイデンティティー(国民性、思想、宗教観)に対する混乱が、今回の事件の背景に見られるという。これは移民が突然テロリストに変わる背景として、近年アメリカ国内で起こっているテロ(未遂)に対する共通認識だと述べている。
専門家は、「断定するには早いが、彼らの中にある、アメリカ人として生活を楽しむ自分と、遠く離れた祖国で苦しむ兄弟とわかちあうイスラム教徒というルーツの間で、アイデンティティーが乱されてしまったのでは」と分析する。
実際、兄タメルラン容疑者は以前ボクシング関連で受けた取材で、自分にはアメリカ人が理解できず、友達がいないと述べていた。仮に彼らのルーツが事件の背景にあるなら、攻撃されるのはロシア人のはずだ。ただ、弟ジョハル容疑者の教授は、チェチェンの過激派が自己の行動を「ジハードグローバル化作戦」とみなすようになり、やがてアメリカが、イスラムに対する戦争を行う際の自己防衛として正当化されるようになった、という背景を解説する。
しかしウォール・ストリート・ジャーナル紙は、現段階では、今回の事件にアルカイダやチェチェン過激派との関連は見られず、寧ろコロラド州銃撃事件のような国内事件と似ている、と報じている。
真相解明にはまだ時間がかかりそうだ。
【FBIのミス?】
一方で、FBIのミスと疑われるケースが明らかになった。
2011年、ロシアの要請に応じ、兄タメルラン容疑者をテロ活動容疑で取り調べをしていたのだ。FBIは声明で「取り調べ後の彼の行動には問題がなかった。日頃から海外から同様の要請は受けており、特に疑いがない限り追及はしない」と釈明。
ただしウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、タメルラン容疑者のアメリカでの「負け犬状態」を良く知る身内は、自分に話がこなかったと明かしている。彼の話も二転三転しているが、やはり調査の甘さは否定できないようだ。内部関係者からはFBIの行動を肯定する声もある。
こうした状況で、FBIは国内のイスラム指導者と会談。「9.11」以来続く潜在的な脅威に関する情報提供を呼びかけたという。今後はタメルラン容疑者の渡航履歴に重点を置き、特に2012年7月にタゲスタンの親族を訪問したことが、今回の事件と何らかの関係があるものとみて、詳細な調査を続けるとしている。