景気後退には勝てないか? EUの温暖化防止政策、制度崩壊間近

 欧州連合(EU)の排出権制度(ETS)の存続が危ぶまれている。
 価格低迷による市場崩壊を防ぎ、制度の立て直しをするため、欧州委員会が提案した改革案が欧州議会によって否決された。EUは世界に先駆けて、温暖化などの気候変動に対する中核的政策として、2005年にETSを導入していた。
 しかし、ここ数年の景気後退により、多くの工場で生産量や電力消費量が減少し、二酸化炭素(CO2)自体の排出量が減少してきたため、取引をする排出枠が過剰供給となり、その価格が暴落。当初の効力が薄れてきているという。
 海外各紙は、制度廃止に踏み切ることができずに、なんとか復活させたいEUの苦しい状況を報じている。

【欧州議会での否決を受け、排出権価格がさらに下落か】
 欧州委員会は、過剰供給となった排出権に対する入札を5~7年間先送りし、供給ペースを抑制する提案をしていた。しかし、企業負担増加や市場介入が信用を損なうと懸念され、欧州議会では反対票が賛成票をわずかに上回り、否決されたとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
 2015年までに9億トンの排出権が入札対象となっている。2008年は1トン当たり30ユーロ(約3840円)だった価格は、2013年始めには5ユーロ(約640円)まで下がっていた。さらに、今回の否決を受けて、一時2.55ユーロ(約326円)まで下落。現在は3ユーロ(約384円)を若干上回る水準となっているという。
 610億ドル(約6兆円)規模と言われている世界の排出権市場のうち約9割をEUが占めているが、ブルームバーグ紙によると、EU市場はこの1年間で63%縮小しているという。今後は益々の値下がりが予測されており、いつ制度崩壊となってもおかしくない状態が続きそうだ。

【各国の足並みが乱れる中、制度の見直しも必要?】
 今回の否決で欧州の環境目標達成やそのスタンスが不透明となった他、米国ではシェールガス革命が進んでいるため、欧州のエネルギー市場での競争力低下がアナリストらによって指摘されているという。
 また、EU加盟国ではそれぞれ状況が異なるため、各国が独自の方針を打ち出してくることも予想される。例えば、既に現在、英国の排出権の底値設定やオランダの石炭への課税などが行われている。このように、国ごとに異なる政策が続々と行われた場合、EUとしての温暖化政策はその統一性を失いかねない、とフィナンシャル・タイムズ紙は指摘している。薄れゆく連帯感と勢いを失わないためにも、年内には新たな代案をまとめたいところだ。

 特に注目すべき点は温暖化対策と省エネ、再生可能エネルギーの開発のバランスだとブルームバーグ紙は指摘している。EUでは2011年に、再生可能エネルギー開発の補助に500億ドル(約4.9兆円)と、世界でも最高の予算を充てている。2位の米国は210億ドル(約2兆円)だ。
 また、排出権を販売したところで排出量の削減には必ずしもつながらない点も指摘し、低炭素化の促進機能を果たせる制度が必要だとした。

Text by NewSphere 編集部