ベネズエラ大統領選挙、「チャベスの後継者」マドゥロ氏が僅差の勝利 今後の政情は?

 14日、チャベス大統領の死去に伴う大統領選挙投票が行われたベネズエラで、長らく前大統領の側近を務め、「後継者」に名指しされていた、与党ベネズエラ統一社会党のマドゥロ氏(50)がからくも勝利を収めたと発表された。マドゥロ氏は首都カラカスのミラフロレス宮殿(大統領官邸)のバルコニーで勝利宣言をしたという。

【疑問の残る「僅差の」選挙戦】
 マドゥロ氏と、対立候補の野党カプリレス ミランダ州知事の得票数はそれぞれ、750万5000票(得票率50.6%)対727万票(同48.98%)。
 もともと、対立野党からは、ラジオやテレビへの露出や、政府の莫大な資金、そしてなによりも故チャベス大統領に「息子」と呼ばれた「お墨付き」をことあるごとに駆使する戦いぶりを、「同じ土俵とはいえない」との批判が寄せられていた。しかも、不正な投票操作があったとして、野党側は「結果を受け入れない」と表明しているという。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、カプリレス側は、投票所での独自の集計に基づき、自陣の勝利を確信。与党のシンボルである赤いシャツを着た男性が、投票の模様を「監視している」かに見える映像をはじめ、幾百もの不正の証拠があるとして、再集計を求めるデモを支援者らに呼び掛けている。

 海外各国の対応は二分されている。「チャベスの後継者」を前面に押し出すマドゥロ氏が、内政的には貧困対策重視、外交的には反米主義という“チャベス路線”を継承するのは間違いないとみられ、これを歓迎するアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、キューバ、ニカラグアなどのラテンアメリカの左派政権、そしてロシア、中国は早々に祝意を示したという。一方、アメリカ、スペイン、米州機構は再集計を求めている模様。カーニー米報道官は、「急ぐ必要はなく、真に公正な選挙は全ベネズエラ市民のためになる」と述べたと伝えられた。

 一方、マドゥロ陣営は、選挙に不備はなかったとして再集計を拒否。カプリレス陣営の動きを「動乱を招く」と非難しているという。

【勝利の先には茨の道か?】
 しかし、このまま「正当な」大統領として認められたとしても、マドゥロ氏の今後は茨の道であると、海外各紙は軒並み予想した。

<疲弊した経済>
 まずは国内の情勢。チャベス大統領の「革命」を可能たらしめたのは、同氏のカリスマと潤沢な石油マネーだったとされる。
 しかし今、同国の財政赤字は、14年に及ぶ放漫財政の置き土産で、世界でも最悪の15%に達する。インフレもとどまるところを知らず、世界第1位の埋蔵量を誇る石油も、施設の老朽化や資金不足によって、産出量にかげりが見えているという。

<党内からの反発>
 さらに党内からも、これだけ有利な状況だったにもかかわらず、混戦となったことに対し、同氏への批判が高まっている模様。マドゥロ新大統領に次ぐ実力者とされる、ベネズエラ国民議会のディオスダド・カベジョ氏は、「自己批判」を求め、マドゥロ氏の資質に疑問を投げかけているという。

<揺らぐ支持基盤>
 反チャベスを掲げる若年・富裕層から抑えきれない怒りの声が上がっているばかりか、頼りの貧民層、年配層を中心とする支持層からも、「チャベス頼りが過ぎる」、「自分の実力を見せるべき」との離反の動きがあるようだ。
 支持者を手放さないための方策として、マドゥロ氏は最低賃金のアップなどを公約として掲げたが、専門家はこれも、インフレを加速させるに過ぎないと手厳しい。

【マドゥロ氏に、茨を切り開くナタはあるのか?】
 フィナンシャル・タイムズ紙が報じたところによれば、同氏の近くからは、マドゥロ氏の人柄を「実際的」とし、同国の財政赤字を解消する手腕を期待する声も上がっている模様。
 ニューヨーク・タイムズ紙はこうした同氏の人柄を垣間見せる動きを報じている。元ニューメキシコ州知事であり、米州機構の代表としてカラカスに滞在していたビル・リチャードソン氏がインタビューで語ったところによれば、公には「反米」を標榜するマドゥロ氏が、同氏に対し、「アメリカとの関係改善の意思あり」とのメッセージを託したというのだ。

 海外各紙が浮き彫りにした、「チャベス前大統領のようなカリスマには欠けるが、実際的で堅実。意外な計算高さを持つ」というマドゥロ新大統領の人柄。独自色を打ち出し、難局を打開するためには、大ナタを振るう必要がある模様だが、今回の選挙戦は、そのために必要な「権限」を下支えするべき「民意」があまりに乏しいことを浮き彫りにした。不満と不安が渦巻く同国の行方が注目される。

Text by NewSphere 編集部