米軍が「迎撃ミサイル」グアム配備を急ぐ理由

米軍が「迎撃ミサイル」グアム配備を急ぐ理由 米・韓との対立姿勢を強めている北朝鮮は3日、韓国と共同運営していた開城工業団地への、韓国人労働者約480人の越境立入を禁止した。工業団地内にはすでに861人の韓国人がおり、北朝鮮は希望者の帰国を認めるとしている。しかし交替人員が期待できない関係上、実際に帰国を即決したのは33人に留まった。

 開城工業団地は、北朝鮮にとって貴重な外貨獲得源といわれている。フィナンシャル・タイムズ紙は、だからこそ北朝鮮は合弁事業自体を畳むことはできないという意見がある一方、北朝鮮は工業団地の自国労働者を中国に差し向ければよいという意見もある、と紹介している。実際、北朝鮮がこのような封鎖を行った例は過去にもあり、2009年には米韓合同軍事演習に抗議して、演習終了まで断続的に封鎖を行っていた。なお現在実施中の米韓合同軍事演習は、4月末までの予定である。

 さらに北朝鮮は、米国に対し先制核攻撃を含む「無慈悲な作戦」を「認める」と発表した。ヘーゲル米国防長官は「事実かつ明確な危険」と評し、米軍はただちに、本来ならば2015年の予定であった終端高高度地域防衛システム(THAAD)のグアム配備を、前倒しすると決定した。THAADは、迎撃ミサイルや追跡レーダーを備えた、地上配備の中距離弾道ミサイル迎撃システムであり、対短距離ミサイル用のパトリオット迎撃システムと、海上艦艇搭載のイージス戦闘システムとの間を補完するとされる。現在はテキサス州にあるが、数週間以内にグアムに展開されるという。中東への配備も提唱されていたが、米国は北朝鮮情勢(フィナンシャル・タイムズ紙は中国のミサイルにも言及している)を憂慮したようだ。

 ただしウォール・ストリート・ジャーナル紙は、THAADは実際には中距離ミサイル相手のテストが不足していること、想定外の移動費用により国防予算見直しが必要になること、同盟国へのTHAADの販売宣伝という意味も含まれそうなこと、THAADをグアムに設置してしまえば韓国は射程から外れること、などを指摘している。
 またニューヨーク・タイムズ紙は、韓国には有事に米軍が本当にアテになるか疑う声もあり、独力での核武装論さえ台頭していると伝えている。そうなるとTHAADのグアム配備決定には疑問が出そうにも見えるが、同紙は、グアムにTHAADを配備する代わりに、周辺のイージス艦艇を朝鮮近海に送れるようになるとも指摘する。

Text by NewSphere 編集部