キプロス「犯人探し」の行方
財政・金融危機に陥ったキプロスでは、EUとの救済合意を取り付け、2週間ぶりに銀行が再開したものの、引き続き混乱が続いているようだ。EUとの関係悪化もさることながら、先が見えない状況に対する責任のなすりつけ合いが国内では行われているという。
海外各紙は、財政悪化の原因を究明する動きを取り上げている。
【犯人探しをするも、もはや後の祭り】
キプロスでは、救いようのない状況まで銀行の経営を悪化させた責任を問う声が挙がっている。フィナンシャル・タイムズ紙によると、政府は委員会を設置し、その原因を追求する意向だ。今後は刑事・民事双方から調査を進め、要人逮捕の可能性もあるという。
また、責任をとってミハリス・サリス財務相とキプロス中銀総裁のパニコス・デメトリアデス総裁は辞任すべきだとの圧力も高まっているが、今のところその予定はないという。また、国民は政府に責任があると理解してはいるものの、EUの厳しすぎる対応に不信感を抱く者も少なくないという。同紙は「政府に裏切られた」と訴える声や「自国の経済政策を犠牲することになったEU加盟は大きな間違いだった」と嘆く声を取り上げている。
一方、国内外への不信感が募る中で、キプロス正教会はその資産を経済救済に充てると発表したことから、唯一信頼を保っていると報じられている。
同国銀行が経営難に陥った大きな原因として、ニューヨーク・タイムズ紙は、高リスクなギリシャ国債に対する大規模な投資を挙げている。他国の銀行らが、問題を抱えるギリシャ国債を手放すことに必死になっていた2010年頃、キプロスの銀行はこれを買い漁っており、その額はGDPの3分1に相当する58億ユーロ(約6993億円)だったとも言われている。結果としては、43億ユーロ(約5185億円)の損失を計上し、これは未だ回復できていない。またずさんな経営により、急激な資産減少に備えた資本強化を怠ってきたことも仇となったと指摘されている。
【頼みの綱は観光業だけか】
怒りが収まらない国民とは対照的に、観光客はお気楽なようだ。海外からの観光客が集まるリゾート地では金融危機の「き」の字さえも感じられないほどの雰囲気だと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
キプロスには毎年、人口の2倍程の250万人の観光客が訪れており、その直接的な収入はGDPの10%と言われている。間接的な経済効果を考慮すると、経済に大きく貢献している観光業をなんとしても維持して行きたいところだという。政府や業界関係者らによると、英国などの主要国からの予約は一時期、減少をみせたようだが、比較的安定しているようだ。特にEUと救済合意に達したため、状況は回復していく見込みだという。観光客の中には、経済難で物価が下がることを期待する声も少なくないようだ。同国を訪れる人々は、ATMの引き出し規制などを避けるために、多めにユーロを持参したり、クレジットカードを使用するなどして、いつも通りに休暇を楽しんでいるという。