中国船、ベトナム漁船に“発砲” 錯綜する両国の言い分とは?

 ベトナム政府は25日、ベトナムの小型漁船が南シナ海で中国の大型船から発砲を受けたと発表した。発表によれば、漁船はパラセル諸島周辺海域で中国の大型船に追い回された後、発砲を受け、炎上したという。
 これまでも、ベトナム漁船が中国船に追跡されたケースはあったが、発砲を受けたのは今回が初めて。ベトナム政府は事態を重く見て、中国に厳重抗議をするとともに、「責任の追及と漁船の賠償」を求めた模様だ。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、同国がこれほど強い非難を表明するのは、昨年12月に、地震石油探査のために敷設中のケーブルを中国漁船2隻が切断したと発表して以来のことで、今回のことにいかに神経を尖らせているかを浮き彫りにしているという。
 海外各紙によれば、ベトナム政府は、大型船が国有かどうかについて、また、怪我人の有無については公表しなかった。ただし、政府系機関紙ティエンフォン(先鋒)新聞が報じた船長と船主の談によれば、中国船には、中国海洋調査船の銘があったという。船長らはさらに、20日の朝、中国船が近づいてきた際には、全乗員が甲板に座り、武装していないことを示したのにもかかわらず、4、5回の発砲を受け、船は炎上したと述べたと報じられている。
 なお中国国防省は26日、「海軍の艦船が信号弾で警告しただけで、武器は使用していない」と発砲を否定した。

 この海域は、鉱物資源が豊富とされているうえ、主要航路が交差する地点でもある。豊かな漁場でもあり、天然ガスや石油などの資源が眠っているともされ、長きに渡って中国、ベトナムなどの諸国が領有権を争ってきた。本来、中国領の海南諸島からは200海里外にあたるが、中国は1974年に武力行使によって同域を掌握後、実効支配を続けている。昨年7月には、南シナ海の南沙・西沙・中沙諸島を新たに「三沙市」とし、軍司令官を任命することで、さらに支配力を強めているという。
 中国外交部報道官は、詳細は不明としつつ、中国側のとった行動は中国の領海で不法に就業するベトナム船に対抗するための「合法的かつ正当なもの」だったと述べ、「実力行使」を半ば認めた形だという。ただし、いずれの船にも損傷はなかったとの認識を示した模様だ。

 ただし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、中国人民解放軍総政治部が母体の「解放軍報」のウェブ上のレポートには、「海軍船が、就業中の4隻のベトナム船に対し、パラセル諸島周辺海域からの退去を求め、2発の信号紅炎を発射した。信号弾はいずれも空中で燃え尽きた」と載せられた。

 なお、人民日報傘下のグローバル・タイムズは、今回の事件を、「中国はベトナムに対し、西沙(パラセル)諸島海域での不法な漁業をやめるように促した」という論調で、両国の公式見解を淡々と報じた。さらに、昨年末のケーブル切断に絡むベトナムの声明を裏返すかのように、中国は、ベトナムに対し、「自国の漁師の教育と管理を強め、不法な行為への従事をやめさせるよう」促した、と述べている。

 こうした南シナ海の緊迫には、アメリカも懸念を表明。両国からの情報を求めるとした。最近の日本に対するレーダー照射問題と合わせ、中国が領土問題での攻勢を強めていることにより、同地域に数ヶ国の同盟国を持つアメリカも同海域に戦略的重点を置いているとされる。ただし、中国はこれを、「中国の台頭を抑制する試み」と公然と非難しているという。

Text by NewSphere 編集部