キプロスEU救済条件拒否 それでもスペイン・イタリアが平静の特殊な背景は?
キプロスで、EUからの経済支援の条件として、一般人や外国人を含む全預金口座に対する課徴金が発表されたことは、欧州各国に波紋を呼んでいる。国内では反発の動きが強まり、各国の株式市場へも影響を与えた他、スペインやイタリアなど財政難にある国々の不安も高まったようだ。
最終的な決定がくだされない中、海外各紙は温度差がうまれつつある国内外の様子を報じている。
【国民の理解が得られない中、ドイツへの怨嗟の声も】
異例とも言える徴収方法に怒り、国民は大統領官邸前に集まりデモを展開した。ニューヨーク・タイムズ紙によると、人々はこの条件を迫ったユーロ圏首脳と、それを飲んだ大統領に対して抗議しているという。特に提案者とされるドイツに対しては、「メルケル(ドイツ首相)、我々の貯金を盗むのか」と声を荒げる者もいるという。また参加者の中には、両親が積み立ててくれた留学費用が減ればその夢も破れてしまうと訴える学生もいる、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
閉鎖中の銀行の営業再開も延期されているとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じた。市中のATMには預金を引き出す人々が押しかけており、銀行が所有する現金は刻一刻となくなっているのも現状だ。
EUの救済資金がなくては、国の経済の45%を占める銀行産業が破綻してしまうため、アナスタシアディス大統領はなんとかして国内の理解を得たいところだといわれる。しかし、同氏は今回の条件に関しては「半ば脅迫」され仕方なく合意してしまったとも述べており、出来る限り穏便な代案を模索中だとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。一方ドイツ側からは「もともとのアイディアの提案者はドイツではない」との主張も挙がっているようだ。
こうした状況下で、キプロス議会は19日、国際支援を受ける条件である銀行預金課税法案を否決した。同国は欧州当局と支援代替案を協議し、またロシアに支援を要請したと報じられている。
【あくまで平静を保つ西・伊両国】
同様の措置が懸念されるスペインやイタリアでは、市場に若干の動きが出たものの、すぐに落ち着きを取り戻しているという。キプロス問題の解決には妥当な案だとの声も少なくないようだ。
キプロス経済はEU全体の0.2%にすぎない上に、今回はロシアマネーが絡んでいる特殊な状況であるため、他国には当てはめられないとの見方になったとウォール・ストリート・ジャーナル紙はまとめている。これは、キプロスは1990年代から不透明なタックスヘイブンとして知られるようになってきたことが背景にある。2004年のEU加盟時にその枠組みを廃止しているが、ロシア発のマネーロンダリングに使われているのではと、実態が懸念され続けてきた。EUとしてはキプロス救済の他に、国際金融のあり方に喝を入れる目論見もあるとも言われている。
そのため一方で、ロシアはこの決定に不快感を表しているとフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。今後のキプロスへの経済支援に関して検討し直すと述べるなど反発をあらわにしているという。