キプロスの経済措置は、新たな欧州通貨危機の火種となるか?
キプロス政府はユーロ圏と国際通貨基金(IMF)から100億ユーロ(約1兆2500億円)の支援を受ける条件の一環として国内銀行の預金者へ課税を行い、58億ユーロ(約7100億円)を徴収する方針を固めた。EUにおいて支援と引き換えに預金者が負担を課せられるケースは初めてであり、キプロス同様に経済危機に陥っている加盟国を中心に不安と波紋を広げている。
海外各紙は、厳しい選択を迫られたアナスタシアディス大統領の様子や、関連諸国の反応をまとめている。
【突然の課徴金に、口座からあわてて引き出す市民も】
今回の救済計画の中では、10万ユーロ(約1250万円)以上の預金に対して9.9%、それ以下には6.75%の課徴金を1回に限り徴収する見込だと各紙は報じている。アナスタシアディス大統領は苦痛をより平等にするためにその比率などの交渉を続けているとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。10万ユーロまでの小口預金に3%、10万から50万ユーロの預金に10%、それ以上は15%という新提案もあるという。比率はどうであれ、キプロスが求められている金額を調達できるようであればEUとしては異論はないようだ。
大統領は今回の決断を「理想的ではないが、経済の破綻を避け、回復と繁栄への道を切り開くための最も痛手の少ない解決法」だとして、理解を訴えているとフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。また、預金者に対しては損失分相当の銀行株で埋め合わせをする他、今後2年間にわたり口座を維持することを条件に、天然ガスによる収益に支えられている国債を与えるとした。苦肉の策とはいえ、不確定要素が多いため、国内のATMなどへは預金者が貯金引き出しのために殺到しているようだ。また、議員のほとんども反対している他、課徴金の引き落としに必要な法整備の有無も定かではなく、しばらくの間は混乱が続きそうだ。
【小国から拡がる大きな波紋】
フィナンシャル・タイムズ紙によると、キプロスの全預金額は1月時点で680億ユーロ。430億ユーロが国民によるもので、その他はロシアを筆頭に外国からの預金となっている。ロシアのプーチン大統領は不公平な措置だと反発している。また、3500人の軍関係者をキプロスに置く英国では、昨年末で計19億ドルの預金を計上しており、同国政府は影響を受ける政府・軍関係者に対して補償を行うと発表しているとニューヨーク・タイムズ紙は報じた。
キプロス経済が立て直しに必要な予算は170億ユーロと予測されてきたが、経済規模がEU全体の0.5%にも満たない小国に対する支援としては多額すぎるとIMFらは捉えていたため、今回の条件を突きつけられたと各紙は報じている。また、国内である程度の金額を調達することでドイツやオランダなどの財政健全国による支援策が議会承認を受けやすくなると期待されているようだ。
異例の措置は「キプロスに限った特別なもので、他国で行われることはない」と言われているが、実際のところは小国で実験を行い、効果があれば今後スペインやイタリアなどの財政問題を抱える国でも適用される可能性があると各紙は分析している。