習近平が抱える中国の「4つの課題」とは?
中国では5日、国会に相当する「全国人民代表大会(全人代)」が開幕する。全人代は、中国全土から3000人の代議員が集い、約10日間続く。共産党が政治を主導する中国の「国会」は、2月末に行われた「第18期中央委員会第2回総会(2中総会)」で討議された内容が粛々と「承認される」場となる。
【注目の人事】
今回の全人代は、昨年11月に行われた、10.年に一度の権力移譲による新人事が承認を得る場でもあり、胡錦涛-温家宝体制の最後の表舞台でもある。習近平体制の「体質」を占う試金石として注目が集まっている模様だ。
人事についての注目点は、習氏の後任となる国家副主席に李源朝氏が就任するほか、汪洋氏が副首相の一角を占める見通しだという。先の人事で、強大な権力が集中する政治局常務委員会のメンバーから外れた2人が重用されたことには、胡派の巻き返しという一面もあり、党内調和重視の姿勢が垣間見えるという。
【指摘される課題】
一方、旧体制への人民の「失望と不満」は目に見えるほど高まっていると伝えられる。この10年間、内需を拡大し、資本集約的な産業と輸出への依存を軽減する「経済改革」を標榜しながら、ほとんど成果を出せなかったためだ。
この状況下で発足する新体制の課題は「山積している」、と報じたのはウォール・ストリート・ジャーナル紙。焦点は、(1)改革に取り組む当局の意欲のほどを占うとされる「省庁改編」、(2)国民の不安が募る大気汚染などの「環境問題」、(3)経済格差の元凶ともされる「党内部の権力乱用や腐敗」だとされる。
もっとも具体的な動きが見られそうなのは、第1の課題である省庁改編で、27の省庁のうち、最大4つが解体・統合される可能性があるという。順当なのは、2011年に衝突事故や汚職事件などのスキャンダルを出した鉄道省、近年相次ぐスキャンダルにまみれ国民の懸念の的となっている、食品安全の監視機関が候補に挙げられている。
しかし、当初取りざたされていた、より果敢で広範囲に及ぶ改革は見送られる見通しだと報じられている。しかも、残る2つの焦点については、現体制は改革を約束しつつも、なんら具体策には踏み込んでいないという。
【国防に焦点】
こうしたなか、習氏の旧体制との「差別化」という意味でも注目されるのが、ニューヨーク・タイムズ紙が注目した第4の焦点「国防」だという。決断力と実行力に欠けるとの評価が定着した胡錦涛氏は、10年前の総書記就任当時、江沢民氏が党中央軍事委員会の長の座に留任したのを受けて、5年間は軍を統括できなかった。一方習氏は、11月に党中央軍事委員長の座に登って以来、少なくとも9回は軍を訪問し、軍の擁護者としての立場をアピールし、良好な「絆」の強化に努めているという。日本との領土問題が風雲急を告げていることもあり、国防予算拡大の方針も決定しているという。
識者によれば、人民解放軍は実際、「人民の政府」ではなく「党と総書記」に忠誠を誓ってきたという。習氏は現在のところ、その伝統を引き継いでいるとも指摘される。ただ、今なお「西側の中国への侵入と国家転覆のくわだて」を警戒する旧態依然とした軍の体質は、コミュニケーション不足などをきっかけに、極めて危険な暴走へつながりかねないことも同紙は示唆している。
フィナンシャル・タイムズ紙は、旧体制への不満が募る同国で、新体制に寄せられている国民の高い期待は「諸刃の剣」だと分析した。習氏にとって、一見「順風」にも見える党内調和、国民の期待、軍との良好な関係。しかし、それ自体が火種となりうる危険を抱えて、今後のきわどい舵取りが注目される。