海外紙が分析するイタリア総選挙 庶民の怒りと不満のはけ口はどこに?
24、25日の両日投票が実施されたイタリアの総選挙の結果は、国内外に大きな衝撃をもたらした。事前予測では優位に立っていたベルサーニ氏率いる中道左派連合が、下院ではかろうじて過半数を獲得したものの、上院では過半数を下回ったのだ。イタリアでは上下院の権限がほぼ等しいため、今後の首相指名すら難航が予想され、このままでは安定政権の樹立が厳しい見通しとなった。
この結果を受け、イタリアに緊縮策を強く求めてきたドイツなどには警戒感が広がっている。国際市場も軒並み混乱を呈し、株安・ユーロ安の動きを見せた。
対照的に予想を大きく上回る躍進を遂げたのは、スキャンダルにまみれて一時は政界引退を表明したベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合。加えて、政治家をこき下ろし、反緊縮やユーロ残留を問う国民投票の実施などを訴えた、元「政治風刺」コメディアンのグリッロ氏率いる新党「五つ星運動も、新党ながら上下院ともに5分の1近くの議席を獲得した。政治不信の国民からの支持を強く印象づける結果となった。
【今後はどうなる?】
勝利宣言をするはずが一転、善後策を講じるのに追われるベルサーニ氏は、「責任を投げ出しはしない」と断言。連立を模索する模様だが、ベルルスコーニ氏ともグリッロ氏とも政策に大きな隔たりがあり、道のりは険しいと見られる。
結局安定政権とはならず、再選挙の可能性も強く示唆されているが、それを望んでいるのは、さらなる躍進が期待される五つ星運動のみだという。フィナンシャル・タイムズ紙は、グリッロ氏が「完全な、革命的な政治の刷新」を目指しており、再選挙こそ彼の究極の目標だというエコノミストの談を紹介した。
ただしウォール・ストリート・ジャーナル紙は、既存政党も、特殊な選挙制度を改革するためだけに暫定的に協力し、改革後に選挙を仕切り直すとのシナリオもありうると示唆している。
こうした大混迷の原因は、モンティ前首相の緊縮策による失業率の上昇や年金カットなどへの不満だという点では各紙とも一致している。ニューヨーク・タイムズ紙は、この風潮はイタリアのみならず世界的なものだと分析。経済的膠着にうんざりした投票者が、政策や実行力に期待してではなく、「反主流」の意志を表明するための投票に走っているとした。「(ペッペ・グリッロならず)長くつ下のピッピ党でも同じことだ」との皮肉めいた識者の意見も紹介している。さらに、国民からの期待は高まる一方、人気取りのため重要だが不人気な決断を下せない政党は、「舵取り」の手段が狭められる一方だという識者の談も載せている。
グリッロ氏は、「政治家よ去れ」と叫び、生活必需品の無料化や反緊縮を謳うことで民衆の心を掴んだ。対してベルサーニ氏は、「今や彼らも「政治家」だ。去らないのなら、明確なビジョンを示すべきだ」と苦言を呈しているという。
出口が見えないまま、有権者の現状への不満が浮き彫りになった今回の選挙。ユーロ圏第3位の経済規模であるイタリア政治の行方は、ユーロ危機の再燃にもつながりかねないため、懸念されている。