キプロス「新船長」は沈む島を救えるか?
24日、キプロス大統領選挙の決選投票で、ベイルアウト(緊急融資)推進派の保守、民主運動党のニコス・アナスタシアデス候補が得票率57.5%で勝利した。先週の選挙では同氏が第1位ながら、過半数に達しなかったため、規定により決選投票となったものだ。対立候補は労働人民進歩党(共産党)推薦無所属のスタヴロス・マラス氏で、不人気なフリストフィアス現大統領の後継と目されたことが障害になってか、得票率42.5%で敗れた。接戦に思えるが、キプロスの大統領選としては30年ぶりの大差とのことである。また前回は90.1%だった投票率が81.6%に低下しており、特に若い有権者の政治不信が反映されたとのことである。
しかし新大統領の前途は多難で、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「氷山にぶつかった直後にタイタニック号の船長になったようなもの」との評を伝える。キプロスは銀行部門が実経済の8倍もの規模を持ち、それがギリシャ債務危機に巻き込まれたため、経済が急速に悪化した。キプロスの経済は2012年に2.3%縮小、今年も3.5%縮小が見込まれている。6月上旬には14億ユーロの国債償還期限も迫っているが、自力返済できる見込みはない。ヨーロッパ本土の危機がどうにか一段落したとも言われる中、小規模なキプロス経済といえども破綻すれば本土の危機を再燃させる恐れがあるとして、危惧されている。銀行預金者に損失計上を強いる手も考えられるが、それこそ各国の銀行へ信用不安が及ぶとして、危険視される手段である。
よってアナスタシアデス新大統領としては、170億ユーロとされるベイルアウトの申請を急ぐ考えである。ただし、これによりキプロスの債務はGDPの140~145%程度にまで膨れ上がり、経済を一層冷え込ませるとみられる過酷な緊縮策を受け入れざるを得なくなる。フリストフィアス現大統領はその緊縮に抵抗し続けたが、かといって経済を改善できたわけでもなく、時間を浪費してヨーロッパとの関係をこじらせただけであった。その点アナスタシアデス新大統領は、ドイツのメルケル首相らと「保守仲間」として緊密な関係のため、関係修復が期待されてはいる。
しかしフィナンシャル・タイムズ紙は、実際のところアナスタシアデス氏が、民営化などの痛みを伴う改革に対してどこまで本気なのか、疑わしいと指摘する。氏が、民営化に対し3年ほどの猶予が必要だとためらっているほか、ロシア新興財閥のマネーロンダリング(資金洗浄)場所との疑惑もあるキプロス銀行部門に対する民間監査要求を拒否するなどしたためだ。