中国政府はなぜ「本物の」労働組合役員選挙を後押しするのか?
アップル社など大手メーカーを取引相手とする世界最大の委託製造業者・フォックスコン社(本社台湾)の中国工場で、経営者が関与しない労働組合の代表者選挙が実施されることになりそうだ。中国において、複数の候補者から労働者が主体的に投票する「本物の」自由な労働組合役員選挙が、大企業で実施されることは極めて異例のことであり、その成り行きが注目されている。
【フォックスコン社での労働の実態】
アップル社のiPhoneやiPadの生産を請け負うなどして急成長を遂げてきたフォックスコン社だが、フィナンシャル・タイムズ紙によると、2009年から2010年にかけてその中国工場で多くの自殺者が出たため調査が行われていたという。その調査により違法な超過勤務や低賃金、児童労働の実態が明らかになったとされている。同紙によると、フォックスコン社の労働組合の委員長は、同社の創設者であり社長である郭台銘氏の盟友であり、組合役員の半数以上も経営側から送り込まれているため、完全に御用組合化しているという。
【中国政府の「革命的」措置】
フィナンシャル・タイムズ紙は、中国政府が労働組合役員の自由選挙と団体交渉による労働条件の決定を奨励していると報じている。同紙によると、中国ではTV番組で歌唱コンクールの優勝者を決めるために視聴者が携帯電話によって投票しただけでも取り締まりの対象になるほど、中国政府のトップがあらゆる形態の自由選挙について強い警戒心をもっているという。したがって今回のフォックスコン社の120万人という従業員による自由投票を中国政府が奨励する事態は、異例中の異例であり革命に他ならないとしている。
【日本企業も遠因に?】
同紙によると、背景には、中国政府が頻繁に起きる労働者の暴動を警戒しているのだという。その遠因にあるのが、2010年にホンダ工場で起きたストライキだ。当時、ストライキに参加していた若い労働者たちは、中華全国総工会(中国政府公認の労働組合連合組織)のメンバーに対して”見たことがない連中だ”と罵声を浴びせていたという。その時以来中国南部の地方政府は組合役員の自由選挙を推進してきたと同紙は報じている。
【本物の労働組合と言えるか?】
ただし、自由選挙により組織された組合が「過分な」要求をしてきた場合は、政府には法的に介入する余地が残されているとフィナンシャル・タイムズ紙は見ている。また中国の労働者は投票の役割や労働者の権利、組合執行部の役割について知識がないため、それらについて教育しなければならないという。
しかし、フォックスコン社に在職する期間は平均で13か月でしかなく、自由選挙の準備に関わっている人々は時間が足りないと考えているようだ。さらに、中国では労働組合の概念がよく理解されていないとの見方もあるという。