パキスタン、首相逮捕命令と反政府デモが同時期に起きた理由とは

パキスタン、首相逮捕命令と反政府デモが同時期に起きた理由とは 3月に総選挙を控えるパキスタンで、司法や国民が政府に反発する動きを見せはじめている。 パキスタン最高裁は15日、アシュラフ首相が汚職事件に関与した疑いがあるとして逮捕命令を出した。同氏が水利・電力相だった時代に電力事業を巡って民間会社から賄賂を受け取った疑いがあるという。同国では最高裁と政権が対立を深めており、昨年もギラニ前首相が汚職事件をめぐる法廷侮辱罪に問われ辞任に追い込まれている。アシュラフ氏は逮捕命令を不当として反発しており、今後の動きに関しては定かではない。さらに首都イスラマバードでは、ザルダリ大統領の退任を求め大規模な反政府デモが繰り広げられている。
 海外各紙は、反政府運動やその背後の軍部の存在に注目した報道をしている。

【大統領就任以来の最大デモ】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、首都での反政府デモは数万人規模で行われ、自由で公正な選挙の実施を求めているという。ニューヨーク・タイムズ紙によると、デモ活動の一環として、大統領の早急な退任を要求するテレビコマーシャルまで放送しているようだ。制作・放送予算の出処については明らかになっていない。フィナンシャル・タイムズ紙は、現在のパキスタンで選挙に当選するために必要なのは「3M(Money、Might、Manipuration:金、権力、工作)」であり、現役政治家の70%は脱税者だと批判した上で、真の民主化を訴える活動家の言葉を取り上げている。国会前でのデモ活動には全国から人々が集まっており、ある女学生は友人ら5人と300km離れた地域から参加しているという。彼女は「大統領は国を治めるための道徳的権威を失っている」と述べている。

 今回の騒動はザルダリ氏が大統領に就任した2008年以降最大の反発だといわれる。国民によるデモが熱を帯びる中での首相の逮捕命令という異様なまでのタイミングの良さの裏には、軍部の影響も少なくはないだろうとの見方が濃厚だ。

【黒幕は軍部?】
 ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、2011年に米国によるオサマ・ビンラディン氏の殺害をきっかけに勢力が軍部の政治への発言力は弱まっている。ただし、ザルダリ氏を軽視する軍の重鎮らは未だに政治に対して影響力を及ばせており、今回も、司法への働きかけや、反政府デモ主催者のカドリ氏とのつながりが噂されている。
 さらに、総選挙が近づくにつれ、デモ隊が首都中心地を占拠し続け武力による排除に踏み切らざるを得なった場合、軍が介入してくる可能性もあるという。

 なお総選挙が実施された場合、ザルダリ大統領は、独立後66年の歴史の中で、民政移管後の政権として初めて任期を満了することになる。譲らぬ姿勢を示す両者による今後の展開が注目される。

Text by NewSphere 編集部