過去最悪の大気汚染 中国メディアはどう報じたか
以前から深刻な大気汚染が続く中国では、先週末から汚染数値が過去最悪レベルとなっている。スモッグによって視界が妨げられ、空港や高速道路にまで支障が出ている。さらに、北京の米国大使館の大気汚染モニターによって、有害な影響を与える可能性のある微小粒子状物質(PM2.5)の値が、1立方メートル当たり886マイクログラムとなり、世界保健機関(WHO)が推奨する水準の35倍であることが明らかになった。
長年にわたって懸念されてきた問題のさらなる悪化を受け、中国メディアは異例とも言える率直な報道で事態の深刻性を訴えている。海外各紙も中国の大気汚染の現状を報じるとともに、変化を見せる報道のあり方に注目している。
【不十分な政府の対策】
フィナンシャル・タイムズ紙によると、中国政府も大気汚染の問題は認識しており、この15年程は「ブルー・スカイ・デイズ(青空の日)」を増やすことを目的としたキャンペーンを展開していた。開始当初の1998年は年間100日だった「ブルー・スカイ」は2011年には286日にまで達したという。
しかし同紙は、これを中国当局の都合の良い発表と否定。この国では経済成長のために環境が犠牲になることは仕方がないという見方が強く、信ぴょう性の低い測定方法(スプリンクラーのある公園など意図的に空気の澄んだ場所を選ぶなど)や、役人によるデータの改ざんなどが日常的に行われていると指摘した。実際、2008年に開催された北京オリンピック以降、大気汚染はひどくなる一方だという。同年に米国大使館がPM2.5 の測定・公表を開始してからはデータの差が明らかになったこともあり、「ブルー・スカイ」キャンペーンは中止されているという。一方で、国民や米国からのプレッシャーを受け、2012年1月からは政府当局も74都市でPM2.5の観測を実施している。
【中国メディアの報道】
ニューヨーク・タイムズ紙は、インターネット上で大気汚染を問題視する国民の投稿が増え続けたことを受け、中国の主要メディアでもこの問題が取り上げられるようになったと報じた。
中国共産党の機関紙「人民日報」は「美しい中国は健康的な呼吸から始まる」という社説を1面に掲載。「広範囲にとどまる“もや”は、われわれの視界を不明瞭にしているが、それは緊急に汚染をコントロールする必要性を一層明確にした」と指摘しているという。また、 中国中央テレビ(CCTV)はゴールデンタイムのニュースの中で大気汚染をトップニュースとして報じた。中国共産主義青年団の機関紙「中国青年報」や、人民日報の国際版「環球時報」なども、政府がこれまで適切な対応を行なってこなかったことを指摘し、問題解決のために正確なデータの公表、社会の取り組みを求める記事を掲載している。相次ぐ報道に対して、中国ニュースサイト Sinocismでは、「(不明瞭な)北京の空気とは対照的に、あらゆる中国メディアがこの問題を驚くべき明確さで取り上げている」と報じている。
政府による報道検閲が問題となったばかりの状況下で、異例ともいえる現実を直視した報道に関して、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、習近平新体制への入れ替わりによって方針が転換されてきているという見方を示した。政治的な反発さえも懸念される中、政府は国民の声を無視できない状況にあり、率直に問題に対応しようとする姿勢のようだという。