【2013年注目ニュース】3.イランの動向
今後の国際政治・経済を考える上で、イランの動向は重要だ。地域安全保障に与える影響、アメリカ・イスラエルとの緊張関係といった観点から現状を整理し、今後の動向を分析する。
最も動向が注視されているのは、核開発疑惑だろう。イラン政府は常に、イランの核開発は平和利用の原子力発電のためであり、核兵器を開発する意思は無いと主張している。一方この主張は偽装であるとの見方も強く、国連安保理は、2006年12月、2007年3月、2008年3月にイラン制裁の決議を採択した。
特にアメリカ政府は、1980年代からイランを「テロ支援国家」と認定しており、貿易・投資・金融を禁止。2010年7月には、オバマ政権が、イランの金融・エネルギー部門と取引する企業への制裁強化を柱とする対イラン制裁法を成立させた。イランにガソリンを輸出する企業や金融機関への制裁を盛り込んだ厳しい内容となっている。EUも2012年10月には、イランからのガス禁輸などといった措置を行うことで合意している。
実際、制裁の影響で、イラン通貨レアルは暴落。物価の急騰も伴い、9月~10月には反政権デモが行われるなど混乱の様相が伝えられた。アフマディネジャド大統領は、制裁の影響を認めつつ、悪いのは政府ではなく国民を苦しめる西側諸国だと非難した。デモには国内の反政権勢力が関与しているという観測もある。大統領は失政の非難を打ち消そうと懸命だが、国民の外貨購入の動きには歯止めがかかっておらず、中央銀行の政策転換によって外貨が入手できなくなった国民のあいだには不安と不満が渦巻いている、と報じられていた。
2010年9月には、核燃料施設のウラン濃縮用遠心分離機を標的として、「スタックスネット」と呼ばれるウイルスを使ったサイバー攻撃が実施された。2010年以降には、少なくとも4人の核科学者が暗殺された。2012年8月には、イランの原子炉設備への電力供給が、何らかの爆発によって阻止された。イラン政府側は、こうした事件をアメリカとイスラエルの仕業だと強く非難しているが、両国は関与を否定している。逆にアメリカは、イランがサイバー攻撃を行っていることを示唆しており、「サイバー戦争」が水面下で行われている可能性がある。パネッタ国防長官は「サイバー空間における我々の国益への脅威に対抗する効果的な運用を行う能力を開発した」とコメントし、サイバー空間における“国防のための”先制攻撃を容認する方針ではないかと見られている。
なお、2013年6月には大統領選挙が行われる予定である。アフマディネジャド大統領の三選は認められていないため、身内を後継者に据えようとする大統領と、阻止しようとする政敵の思惑が、対内/対外政策にどう影響するかも注目されている。
イランは日本にとって第4位の石油供給国であり、2011年の日本の原油輸入のおよそ9%を占めている。前述のアメリカの制裁対象国からは除外されているものの、同国の情勢は日本のエネルギー政策に大きな影響を及ぼす。