中国当局は、なぜ今、教団を摘発したのか?
中国青海省の公安当局は、政府が「邪教」と認定するキリスト教系宗教集団「全能神」の一斉摘発に乗り出し、約400人を拘束した。公安当局によれば、全能神は、マヤ暦を引き合いに、「12月21日に人類が滅亡する」との終末論を流布していたという。「違法な宣伝・集会活動」を実行し、治安騒乱、横領、誘拐、拷問などの嫌疑があるとも報じられている。実際先週は、逮捕にともない、3つの省で数百人規模の信者が警官と衝突している。
なお、同教団は、中国において以前から非合法とされており、最近は、信者に対して「赤い大きな龍を倒す」ように説いていた。
海外各紙は、大規模な逮捕劇の背景を報じている。
フィナンシャル・タイムズ紙は、中国政府が宗教組織や擬似宗教団体に神経質である理由の1つに、その歴史的背景をあげている。すなわち、中国には、神秘主義的信仰心に基づく反乱の長い歴史があるというのだ。その例として同紙は、19世紀中葉の太平天国の乱、20世紀初頭の義和団を取り上げるとともに、1999年以来当局から弾圧を受けている法輪功についても触れている。
ガーディアン紙(英)も、同様の歴史的視点を援用して今回の逮捕劇を報じているが、さらに、中国大衆のメンタリティについても踏み込んでいる。同紙によると、中国にはマヤの終末論を信じる者が多数いる。マヤ終末論をベースにした映画「2012」も、2009年公開当時には大反響を呼んだという。実際、四川省では、世界の終末による停電に備えてロウソクのパニック買いに走る市民がいるともいわれる。
サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(香港)によると、小学校に押し入り23人の児童を刃物で切りつけた男も、このマヤ終末論に感化されていたという。
このような中国大衆の心的特性を考慮に入れると、「全能神」の信者数が少なくても数百万人規模にあるとする信者の証言(フィナンシャル・タイムズ紙の取材による)もあながち否定し切れない。一方、ガーディアン紙(英)が得た非政府系の推計では、数千人から百万人までの幅がある。宗教的に感化されやすい風土があり、多数の信者を抱える教団が倒そうとする「赤い龍」が中国共産党を指しているならば、中国当局の今回の動きにも説明がつく。ガーディアン紙(英)は、今回の中国当局による摘発が、こうした集団を容赦なく罰するとのメッセージである、とする見方を報じている。