イギリスを襲う、「財政再建」「経済成長」両立のジレンマ

イギリスを襲う、「財政再建」「経済成長」両立のジレンマ イギリスのオズボーン財務相は5日、議会での秋季財政報告で、3つの暗いニュースを発表した。
  第一に、景気の回復は予想よりも遅れている。
  第二に、最重要達成課題としていた2015年度までの債務削減が不可能となった。
  第三に、増税や歳出削減といった緊縮財政策は2018年まで続く・・・。
 具体的には、2012年の経済成長率をマイナス0.1%とし、3月予想のプラス0.8%から引き下げ。2013年も同2%の予想から1.2%に引き下げた。2014年についても、2.7%から2%に下方修正し、今後の目標達成の困難さをも浮き彫りにした。
 同氏は理由として、ユーロ圏の債務危機や、世界的な成長減速を挙げると共に、「イギリスは正しい道を歩いている。今、引き返すのは、大きな悲劇につながる」と強調。緊縮財政路線がいずれは実を結ぶと断言し、この苦境に「一丸となって立ち向かう」と宣言。増税など「誰にとっても辛い」負担への理解を求めた。
 海外各紙は、苦境にあえぐオズボーン氏の政策の是非や今後のかじ取りに注目した。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、「財政再建」という保守党・自由民主党の共通目標が暗礁に乗り上げたことで、与党内にきしみが生じていると報じた。「最大野党・労働党よりも経済のかじをうまく取れる」という、有権者へのアピールにほころびが生じ、緊縮財政下で行われる次の総選挙に暗雲が垂れ込めているためだ。かたや政敵の労働党は、先のオズボーン氏の発表、「団結発言」に野次と失笑で応じ、緊縮財政は失政だと厳しく非難した。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、オズボーン氏は、せめてもの成長支援策として、インフラへの投資増や法人税の追加引き下げを決定するとともに、来年1月に予定されていた燃料税の引き上げを撤回した。しかし、エコノミストから「焼け石に水」との苦言が飛びだしたほか、失業手当を今後3年に渡り年1%の引き上げにとどめるなどの社会保障費削減について、労働党から、貧しい家庭を直撃するとの批判が噴出している。オズボーン氏は、緊縮財政を、低所得者層から富裕層に至るまで、「同率の」負担であると強調しているが、フィナンシャル・タイムズ紙も、「金持ちと貧乏人を搾り上げ、マイカー運転手と中間所得層を助ける」ものと手厳しい表現で報じた。

 また今回の発表により、イギリスはトリプルAの格付けを失う危機に直面しているという。民間格付け会社も「目標不達成は、イギリスの財政構造への信用を低下させる」と述べたと報じられた。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙によれば、この「ニュース」に対し、市場の反応は鈍かった。すでに十分に予想されていた結果だからだという。
 「財政再建」と「経済成長」を両立する困難さをうかがわせる報道となった。

Text by NewSphere 編集部