エジプト新憲法案は独裁への一歩か?旧政権との戦いか?
エジプトのモルシ大統領は、30日に強行採決した憲法草案について、12月15日に国民投票を実施し是非を問うと発表した。これに対し、モルシ政権との反目が伝えられる最高憲法裁判所は、憲法起草委員会の合法性などについて司法判断を下すと見られていたが、モルシ派が裁判所の周辺を封鎖していることを理由に、無期限の延期を発表した。
これについて、海外各紙は、大統領側と司法側との争点を分析。今後の情勢を占った。
大統領側と司法側の溝の深さに焦点を当てたのはウォール・ストリート・ジャーナル紙。いわゆる「アラブの春」によって、2011年2月にムバラク政権が倒されて以来、未だ基盤が脆弱な同国の民主化移行における、最大かつ最も深刻な脅威と位置付け、「噴火寸前」という同国記者の表現を借りた。大統領側は、最高憲法裁判所の判事が旧政権下で任命されたことを問題視し、選挙によって選ばれた正当性を司法権で覆そうとする動きを、「旧ムバラク時代に時計の針を戻そうとする」「エジプトの敵」と非難しているという。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、最高憲法裁が司法判断を無期限延期したことについて、建物内に入ろうとするのを「阻止され」たためとした裁判官側の主張には疑問の余地があるという。実際には通常の往来も可能であると報じられている。何としても憲法の成立を阻止しようとする反モルシ姿勢の表れのようだ。裁判官側はすでに、国民投票の監督を放棄する姿勢も明らかにしているとされる。
こうした闇雲な手段の背景には、フィナンシャル・タイムズ紙がアナリストの談として報じたように、いざ憲法案についての国民投票が行われれば、政治の混乱にうんざりしている国民の多くが賛成票を投じる可能性があるとみられる。事実、モルシ氏の支持基盤でもあり草の根運動を展開するムスリム同胞団は、国民の70%の賛成を得る自負をにじませ、司法の協力が得られない場合の次善策も検討中だとされる。
もっともこの憲法案については、フィナンシャル・タイムズ紙が、文民統制や社会のコンセンサスに欠けるという分析を載せたほか、ニューヨーク・タイムズ紙も、反イスラムの急先鋒であるゲバリ判事の排除を目的として盛り込まれたとみられる私怨的な条項の存在を指摘するなど、かならずしも民意を反映しているとはいえないことも確かな模様。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、司法のみならず、世俗派やリベラル派の18政党および、革命を牽引した学生運動家らが「民主的な大統領として選出されたはずのモルシ氏が、母体政党や団体への傾倒を深め、正当性を減じている」という警告を表明したと報道。さらなる抗議デモの機運が高まっているとした。
総じて、真に問うべき民意が見えない、混乱状況を浮き彫りにする報道となった。