EU予算協議が決裂、各国で波紋広がる
欧州連合(EU)は23日、加盟27カ国による次期7カ年予算協議を、合意を得られないまま終了した。負担金が予算の受け取りより大きい国と少ない国とが対立したためだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今回は選挙を近くに控えている首脳も多く、協議に入った時点で、合意に達することには悲観的な状況だったと分析している。ファンロンパイEU大統領による新提案は農業関連の支出と域内低所得国向け配分を増額し、その分を開発、外交関連予算や各国の輸送、通信用のインフラ予算などの削減で相殺しているが、イギリスを筆頭に北欧諸国らは歳出削減が不十分として反対した。
海外各紙は、統合の障害となったEU内の溝や、国民生活に身近な教育分野における影響に注目している。
【浮き彫りになる溝】
今回の協議では補助金削減や実質凍結を訴える英国にオランダや北欧諸国が同調し、それに反対するフランスや南欧、旧東欧諸国と対立する形になった。キャメロン英首相はEU官僚組織による支出に関して「ブリュッセル(EU)は依然として、あたかもパラレルワールドに存在するかのようだ」と非難したとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報道している。
また、フィナンシャル・タイムズ紙では、フランスが、オランド大統領の就任以来、ユーロ圏回復のためにドイツが進めている緊縮経済政策に反対していることなどからEU有力国家である2カ国間での足並みが乱れていることも影響していると報じている。
【教育分野における予算カットの影響】
ニューヨーク・タイムズ紙は予算カットの影響を受ける各国の教育事情に注目している。 EUは高等教育の強化政策ボローニャ・プロセスの導入に向けても話し合いを進めているが、予算組みなど各国の事情がバラバラで前進できずにいると指摘した。フランス、ドイツ、スイスなど9カ国では教育予算が増加され、北欧諸国はほぼ維持しているのに対し、英国では大幅カット、アイルランドやギリシャ、イタリアなど11カ国でも10%以上削減されていると報じられた。
教育制度の劣化が懸念されるなか、対策も模索されており、オランダでは著しい成果を上げている大学に対して追加予算を与える政策を打ち出し、 アイルランドではカレッジを大学に統合し、少ない予算で効率的に多くの生徒を教育していく政策が動き出している。同国では「学生たちが国内で就職できなくとも、世界に通用する人材に育てることが重要だ」として即戦力に繋がる教育に力を入れていく方針だという。
関係者らは、今回の協議をもとに来年初めには合意できる可能性があると語っていると報じられているが、各国の温度差はなかなか縮まりそうもないようだ。