クリントン国務長官中東入り—「新しい中東」に影響力を行使できるか

 イスラエルの空爆と、ハマスのロケット砲弾の応酬はとどまるところを知らず、7日目に突入した。パレスチナ人の死者は130人を超えたとされ、イスラエル側にも、初の兵士の犠牲者を含む、5人の死者が出た。ハマスとイスラエルの双方にパイプを持つことから仲介の要を担うエジプトのモルシ大統領は、「停戦は時間の問題」と楽観的観測を発表したが、現実には、束の間の砲撃の停止すらもままなっていない。停戦計画の頓挫を受け、オバマ大統領のアジア外交に随行していたクリントン国務長官が中東に飛んだ。エルサレム入り後、ネタニヤフ大統領との深夜の会談に引き続き、21日にはエルサレムとヨルダン川西岸、カイロをシャトル外交する。
 海外各紙は「中東の春」後の新しい政治地図と、揺れ動く各国、各勢力の思惑と立場に注目。停戦合意の可能性を探った。

 まず、注目されるのは、フィナンシャル・タイムズ紙が「各勢力の緊迫した思惑が渦巻いている」と紹介したエジプトの立場だという。モルシ大統領は、アメリカで教育を受けた一方、ムスリム同胞団の出身という経歴を持つ。同氏のジレンマを、ニューヨーク・タイムズ紙は、イスラエルに対する怒りを増幅させる国内外の同胞を無視するわけにもいかず、さりとて、ハマスへの肩入れが過ぎれば、国際社会からの孤立を招きかねないと紹介した。停戦の条件として、イスラエルに、国境からガザ地区への武器の流入を食い止めるよう求められてはいるが、シナイ半島をコントロールする困難に加え「イスラエルの回し者」と見られたくない一面もあるという。
 
 薄氷を踏むような駆け引きのなか、モルシ氏は、トルコ、チュニジアと協調して空爆を激しく非難しつつ、イスラエルとのチャンネルを保ち、アメリカと会談。この姿勢を、ムスリムの代表ではなく、国家元首としての独立したものとして、国際社会は高く評価していると報じられた。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、アメリカとしては、この「新しいエジプト」と協力体制を取ることで、同国との関係と中東での影響力の強化を図りたい構えだという。しかしエジプトは、毎年巨額の軍事費の援助を受けてきたムバラク政権が倒れて以来、慎重にワシントンとの距離を保っているとされる。

 また、アメリカにはもう一つの思惑があるという。長年関係を保ってきたパレスチナ自治政府が、この1週間で「パレスチナの外交的代表」として、ハマスに大きく水をあけられたのに対し、アッバス議長の復権を画策しているというのだ。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙はハマス内部の「アメリカには何の期待もない」という発言を紹介。フィナンシャル・タイムズ紙も、「アメリカの応援を受けるイスラエル」対「エジプト、トルコの応援を得るハマス」という切り口で分析し、アメリカの思惑が成就する困難を示唆した。
 
 一方イスラエルのネタニヤフ大統領については、ニューヨーク・タイムズ紙は、1月の選挙を控え、紛争幕引きの条件とタイミングを図る政治的な思惑があるという事情通の談を紹介。同氏は、エジプトやトルコの政権がどうあれ、手段を問わずイスラエルの国民を守ると強気の姿勢を見せてはいるものの、民間人の死者が増えればそれだけ両国間との関係維持が難しくなるという実情を報じ、停戦の落としどころの難しさを示唆した。

Text by NewSphere 編集部