堕ちたヒーロー-元CIA長官、不倫問題を理由に突然の辞任-渦巻く疑念
ペトレイアス米中央情報局(CIA)長官が9日、突然辞任した。理由は、連邦捜査局(FBI)の捜査の過程で不倫問題が浮上したこととされる。お相手は、ポーラ・ブロードウェルという2人の子を持つ40歳の既婚女性。ペトレイアス氏の伝記執筆で知られるジャーナリストだった。ペトレイアス氏はCIAの職員に宛てた9日付の書簡で不倫を認め、私人として公人として許されないことをした、と辞任を説明した。
なぜこの人物が、なぜFBIにこんな私事を暴かれ、なぜこの時期に―? 疑惑が渦巻く3点に、海外紙は注目した。
まず、人物像に注目し、同氏の華麗な経歴を伝えたのはニューヨーク・タイムズ。生粋の軍人肌で、ストイックな頭脳派のスポーツマンとして知られ、イラク戦争の功績者として賞賛を浴び、共和党の次期大統領候補とまでささやかれた傑物と紹介した。しかも妻は、先祖代々の軍人一族の出身で、米退役軍人活動の支持者として活躍しているという。消費者金融保護局で米兵が抱える金銭問題の解決に努めるという「個人」としてのキャリアを持ち、それでいて、気さくな人柄とも評される。夫婦関係も、軍人ならではの単身生活を余儀なくされながら、きわめて良好という。理想の軍人夫妻として「手本」と仰いでいた周囲にとって、今回の事件はまさに青天の霹靂だったと報じた。
次に、なぜ、これほど高名な著名人のきわめて私的な問題を、FBIが暴かなければならなかったのか。ウォール・ストリート・ジャーナルはそこに着目した。情報筋によれば、問題の端緒は、「フロリダの37歳女性」が謎のいやがらせメールに恐怖を覚え、数か月前に身辺の安全確保とメールの送信者の特定をFBIに求めたことだという。FBIは、メールにペトレイアス氏の個人メールがコピペされていたことを重視し、送信者の調査に着手した。そこで発覚したのが、ブロードウェル氏がペトレイアス氏と不倫メールを交わしており、同氏とフロリダの女性の関係を勘繰って、脅迫まがいのメールを送ったという事実だった。FBIは、当初懸念した国家機密漏えいも犯罪性もないと判断。オバマ大統領への報告を経て、ペトレイアス氏の辞任発表になったという。
しかし、この流れに疑問を持つ者は多いとも指摘される。フィナンシャル・タイムズはこの点に注目。共和党のピーター・キング下院情報委員長が、なぜFBIがメールの調査をし、それがCIA長官につながり、真相発覚に4ヵ月も要したか、すべてが疑問だと語ったことを紹介した。本来、国家安全保障にかかわる捜査については、同委員に事前連絡があってしかるべきとして、FBIの調査について議会が調査する運びだと報じた。
また同紙によれば、CIA長官の代行には、副長官のモレル氏があたり、リビアでの米総領事館襲撃事件に関する公聴会にも出席するという。同氏は正式な後任の第一候補でもあるが、生え抜きのCIA出身者を長官に据えれば、ブッシュ政権下の拷問問題を蒸し返す恐れがあり、難しいところだと報じた。