温家宝首相一族 巨額蓄財報道―温氏側はNYTへの法的措置を示唆―

温家宝 26日付の米紙ニューヨークタイムズ(以下NYT)で、温家宝首相の一族が、同氏の出世と足並みをそろえて27億ドル(約2160億円)もの資金を蓄財してきたと報じた。貧しい出自、庶民との対話、温厚な態度、「富の再分配」を訴える立場から、「人民(庶民)の総理」とあだ名される温氏にとっては、大きなイメージダウンになりうる。
 中国では、NYTの閲覧や関連する検索への規制がかけられた。当局はこの報道を「中国を貶めるもので、隠された魂胆がある」と発表している。温氏側は、弁護士を通じ、NYTへの反論声明を香港紙に掲載。法的措置の可能性にも言及した。
 なお、中国では先ごろ、薄熙来氏のスキャンダルによる失脚があったほか、次期国家指導者を確実視される習近平氏の一族による蓄財が報じられたばかりだった。

The New York Timesの報道姿勢―検証 温氏の反論記事はNYTの記事を覆しうるのか?―
 疑惑を最初に報じたNYTでは、温氏側の反論を検証。内容を対比したうえで、同紙の正当性を主張した。
温氏側の声明が、記事の完全な否定にはなっていないことを指摘。「一族にはビジネスに熱意を示すものもいるが、独自に行っている」「違法ではない」という言い分や、温氏の母の「資産」を否定しつつ、給与や年金の受取は肯定しているなどのレトリックを挙げた。なおNYTの記事は、違法性や温氏の関与について糾弾したものではない。 
 さらに、NYT側の記事に対する絶対の自信や、同社の評価を支える上質の調査に基づく報道の好例であるという主張を行った。

Financial Timesの報道姿勢―異例の対応と今後の動向―
 温氏一族が、海外紙に反駁し法的措置を示唆したことを、専門家は「前代未聞」と語り、今後の中国の指導者にとって「肯定的な前例」となりうるとしたことを紹介した。
 またこの記事が、温氏を巧みに薄熙来氏と同一視させる可能性を示唆。薄氏の支持者はさぞ喜ぶだろうがそれは全くの間違いだ、とする国内の専門家の見解を載せた。とはいえ、来たる党大会での引退が確実とされる同氏の政治的影響力が、大きくそがれる可能性はあると指摘した。

The Wall Street Journalの報道姿勢―氷山の一角 共産党上層部の腐敗―
 今回の蓄財報道が、10年に一度の権力移譲の場となる第18大の直前という微妙な時期になされたことを指摘。引退を前にした温氏が、他の引退組と同様に、後継者の擁立や影響力の保持に努めてきたのに対し、今回の記事が、「思いやりのある指導者」である温氏には痛手かもしれないとの、内部事情通の談を紹介した。
 しかし同時に、過去20年間で多額の蓄財をしたのは温氏だけではなく、その問題が党の信頼性をむしばんでいる、との党内部事情通とアナリストの共通認識を紹介。規制をかいくぐって海外のニュースサイトにアクセスできる若年ネットユーザー層を中心に、党への信頼を傷つける危険があると指摘した。

Text by NewSphere 編集部