「地震予知」できなかった科学者は有罪?
22日、イタリアのラクイラ地方裁判所において、地震学者を含む 7 人の専門家に対して、過失致死傷罪による懲役6 年の判決が下された。この判決は、2009年に被告たちが誤った予報を発したために 309 人がラクイラ地震で死亡したとする検察の主張が認められたものだ。ラクイラ地震当時、被告たちは災害予報防止国家委員会のメンバーであり、同委員会のトップは、弱震の続くラクイラ地方で大地震が起きる可能性は極めて少ないとマスコミに楽観的な談話を発表していた。なお、弁護団は満場一致で控訴することに決定した。
極めて異例な判決に対する反響とその影響は?
Financial Timesの報道姿勢―国内外の反応―
判決文では、弱震が続くラクイラ地方の住民たちを安心させるような情報を被告たちが流し、住民がそれを信用して避難措置を取らなかったために、大規模な犠牲につながったとしている。この判決を受けて、イタリアの地質学者による国家諮問委員会のトップは、「確実な地震予知の手段など存在しないので、科学者全体が裁判にかけられた (も同然だ)」と述べている。イタリア国外の地震学者たちもこの判決を非難している。5,000 人余りの科学者が被告たちを支援するために、公開書状に署名を行い、ジョルジュ・ナポリターノ伊大統領宛に送付した。
上記のように、同紙は、判決が国内外から多数の批判にさらされていると報道している。
The New York Times の報道姿勢―判決の影響に焦点―
イタリアの科学界は、今回の判決による影響を非常に危惧している。今後、科学者たちが適法な自然災害に関するリスク評価を行なったとしても、過失致死傷罪に問われる可能性が出てきたからだ。また、今回の判決によって科学者が口を閉ざしてしまうことも考えられる。判決によってメディアからの圧力が高まり、専門家が国家のために助言を行うことなど不可能になってしまったと考えているのだ。識者の中には、専門家の行う公共サービスがこれで死んでしまったと指摘する向きもあるが、検察側は科学者たちの「史上稀に見る怠慢」としている。
以上のように、同紙は、懸念される影響として科学者の沈黙をクローズアップしている。
The Wall Street Journalの報道姿勢―被告の主張を取り上げる―
今回の判決は、災害予報防止国家委員会の当時のトップが大地震発生の危険性を否定したことが有罪の根拠となっている。しかし被告の弁護人によると、当時同委員会は「 1,000 分の 980 という高い確率で弱震が大地震に発展することはない」と述べたのであって、ラクイラ地方で強い地震が発生することはないと言ったわけではないとしている。さらにこの予報は、多数の国際的な地震学者によって実証されてきたことであるとしている。また被告人の一人は、自分は本来災害予報の専門家ではなく、災害対応の専門家であるとテレビの取材に答えている。
このように、同紙は、委員会の表面的な発言にとどまらず、その主張を詳細に報道している。