阪神・岡田監督の欧州代表への「練習していないのでは」発言は、球団の歴史を顧みていない
2024年3月6、7日に行われた野球の国際大会「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024」。
結果は、日本代表が欧州代表に2勝しました。
試合後、阪神タイガース・岡田彰布監督が欧州代表について述べたコメントが物議を醸しています。
欧州でプレーしたことのある筆者が、そのコメントを分析します。
岡田監督が欧州代表について述べた言葉
岡田監督は7日に行われた全体練習の後、欧州代表について「寒いこの時期、練習はしていないのでは」「レベルが低すぎる」などと発言したと各メディアで報じられました。
ネット上ではこの発言に注目する反応が相次ぎ、「欧州代表へのリスペクトに欠ける」といった声が上がっています。
もしこの発言が本当なら、実際の欧州における野球練習環境の事実と大きく異なる印象です。
今回選ばれたメンバーを内訳すると、
スペイン7人
オランダ7人
イタリア6人
チェコ4人
ドイツ3人
スイス1人
でした。
上記の国はいずれもシーズン前の2月以降は、多少違いはあれど室内でスプリングトレーニングをやっているのです。
確かに連合チームゆえに、色々制約や条件がつき、身動きが取りにくいといった問題があったかもしれません。
「練習をしていない」という発言が、今回の欧州連合チームを指しているなら、可能性としてはあるため許容されたでしょう。
しかし、「何を意図して何に対して言ったのか、来日した連合チームに対して言ったのか」「現地のクラブチームに対してなのか。連合チームと現地のクラブチームを同じと見て言ったのか」と疑問が浮かびます。
いずれにしても適切な言葉ではないのは間違いなく、配慮のない発言で非常に失望感を感じずにはいられません。
阪神タイガースと欧州球界には、深い絆がある
そもそも、阪神タイガースと欧州球界との歴史を振り返ると、この発言は監督という立場で球団の過去をも顧みていないことにもなります。
阪神タイガースでは、吉田義男氏が1990年〜1993年までパリ大学クラブ(PUC)で指導するかたわら、フランス代表の監督を1989年〜1995年まで務めていました。
その時の縁でできたフランス球界との繋がりがあり、2014年オフにレネ・レベレット(元ケベック・キャピタルズ)、フレデリック・アンヴィ(元高知ファイティングドッグス)のフランス人2名のトライアウトを実施することになったのです。
またそれ以前にも、何度か阪神の秋季キャンプにフランス人選手を参加させています。
思い込みが岡田監督の発言を招いた可能性
筆者自身、欧州球界へ足を踏み入れるまでは、漠然としたイメージを持っていたため、岡田監督の発言に流されていた可能性がありました。
今回の岡田監督の発言に対する心因や要因は色々考察できますが、考えられる心因としては先入観や思い込みに強い思想が加わったことでしょうか。
それがやがて排他的になり偏見や差別的な思考に変わり、そして「知らないものは無価値」という思考が心のどこかにあったとも言えると思います。
思い込みが招く例として、筆者が欧州球界に足を踏み入れる前にアメリカでプレーしていたことの話をしましょう。
例えば、「自動車メーカーのホンダやトヨタはアメリカ企業」と言われることがありました。
もちろんホンダやトヨタは日本の企業です。
しかし、両社をアメリカの企業だと考えている人は少なくなかったのです。
欧州野球に関しては、SNS等の普及により若い世代は認知する層が多い一方、インプットやアウトプットができないアナログ世代はそれに対応できずに悪戦苦闘する層もいます。
欧州野球に対する認識の差が、世代間で出てきているのもまた事実としてあります。
その世代のど真ん中に、岡田監督がいたことも今回の発言の要因にもなった理由の一つではないでしょうか。
筆者自身、欧州でプレーしていたとはいえ、ごく一部の国です。
全体を知ってるかのような言動は慎みつつ、欧州内でも行っていない国の方が多いので常に先入観は捨てて現地で携わっていた方に聞く等、そういった前述の方々を反面教師にしていきたいと考えさせられる出来事でした。
筆者: 岩本剛
プロフィール:大阪府泉大津市出身
社会人野球、東京LBC、ゴールドジムBCを経て2012年以降は海外を渡り歩き、これまでアメリカのサマーリーグやオランダやスイス等の欧州のリーグを転々し、2017年から直近までスペイン国内リーグ、ベイスボル・バルセロナに所属。
コロナ禍を契機に一度は引退をしたものの、ベースボールユナイテッドで力投を見せていたバートロ・コローンの勇姿に惹かれ現役復帰を決意し、今現在、現役復帰へ向けてリハビリ中。