侍ジャパンと戦った欧州代表 現地でプレーした日本人が見る欧州の課題と新星
2024年3月6、7日に行われた野球の国際大会「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024」。
日本代表は、欧州代表と2試合対戦しました。欧州代表は、前回2015年は1勝1敗、今回0勝2敗。
今回の欧州代表に選出された国の1つ、スペインでプレーしたことのある筆者が、今回の試合について統括します。
侍ジャパンと対戦した欧州代表の投手陣
試合内容を振り返ると、差があったのは投手力ではないでしょうか。
「策がない」と書くと自滅的な表現に聞こえますが、実際のところは「策を取らせなかった」その日本の投手力こそ「策がない」その真相になります。
エラーや四死球すら出ないのですから、ベンチも手の打ちようがありません。
欧州の投手陣は3ボールカウントが多かったためか、2ストライクで追い込んでからの気持ちに、日本の投手に比べると余裕がなかったように思えます。
日本の野球が相手打者との駆け引きをする考えである一方、北米スタイルに近い力勝負で抑え込む欧州の野球スタイルの違いも多少影響あったように見えます。
特に1戦目で先発登板した、デブロック投手(オランダ)。
チェンジアップやフォーク系統のボールが1球もなく、2ストライクと追い込んでからインサイドにツーシーム系のまっすぐを投げる投球パターンからは、打者と駆け引きをするより力ずくで抑え込もうとする意図が見えていました。
デブロック投手は、今回のメンバーの中では比較的若い部類のまだ27歳の投手です。
試合前に「NPBにアピールしたい」とコメントしていました。
今回の課題として今までの投球パターンを考え直すこと、また緩急が今ひとつ使えていなかったので、チェンジアップやフォーク等のタイミングを外す系統の球種があればまだ改善の余地はありそうです。
同じオランダから選出されたハイヤー投手、肩を脱臼したシュナイダー投手(チェコ)、ドイツの投手陣や2戦目で投げていたチアゴ・ダ・シルバ投手(イタリア)等のベテラン投手の、緩いボールを使い緩急をつけながらタイミングをずらして、押せる場面ではストレートで押す投球は参考になるのではないでしょうか。
ピッチングとは何なのか、打者の意図を読んでいかに打ちにくいボールを投げるか。
デブロック投手を筆頭に、若手の投手にしっかり覚えてもらいたいところです。
また、日本の投手や欧州のベテラン投手のピッチングを見て何を参考にしたか、今後の彼等の活躍に期待したいと思います。
侍ジャパンと対戦した欧州代表の野手陣
次に、欧州代表の野手陣で内容の良かった選手たちです。
攻守で貢献したチェルベンカ選手とフルプ選手(共にチェコ)、ヒメネス選手、バレリオ選手、エンカーナシオン選手(いずれもスペイン)、守備での貢献ではパオリーニ選手(イタリア)あたりでしょうか。
結果は2試合とも完封負け、特に2試合目は完全試合のためあまり何も言及はできませんが、1戦目に関しては彼等はアウトにはなったものの、いい打球を飛ばし内容自体は悪くなかった印象です。
そもそもいい投手相手に鋭い打球を飛ばしても野手の正面に行くのは、投手が難しいコースにボールコントロールがいかにできているかを示しており、個々人が悪いという問題ではありません。
あえて言うなら、打順の組み方の問題でしょう。
この2連戦前、特に注目していたのは筆者と元チームメイトであるワンデル・エンカルナシオン(スペイン)選手でした。
今回帯同したメンバーの中では、最年少の24歳。
今後のキャリアを積むには最高の機会だったのではないでしょうか。
しかし今回の2連戦では、計2打席しか出場機会はありませんでした。
今回の連合チームは、条件や制約がついているなどの難しい問題があったはずです。
しかし、出場機会が少なく持っているパフォーマンス能力の4割も出し切れていないのが現状の問題点として残りました。
打力に関しては策がなく、小技などの細かい部分における差異はあるものの、ネットなどで叩かれるほど悪くなかった印象です。
欧州代表は国を跨いだ連合チームであるため、さまざまな条件や制約があり調整に難しいことはあったはず。
打席数が比較的少なかったですが、それでも内容が明らかに良かったバレリオ選手やエンカルナシオン選手を、ランナーが残っている状況になりやすい打順である6番や7番として出場させても良かったのではないでしょうか。
メンバー構成を見ても比較的経験豊富なベテラン層が多く、本気で勝ちに来てるのは伝わりました。
日本代表は、大学生を代表に選出するなど、若い選手にも出場機会与えられていました。
欧州代表も、勝敗にこだわるのではなくメンバー構成で若手を揃えてほしかったところです。
特に今回のような機会では、スカウトも見ているでしょうから、欧州側もそれに応えるような形で優先順位を結果よりも若手起用を上にしてもらいたかったのです。
欧州代表で期待できる若手陣
今回欧州代表で選ばれたメンバーで20代の選手は、下記の通りでした。
投手:デブロック投手、ファン・ガープ投手(共にオランダ)、シュラー投手(ドイツ)、ボッキ投手、ルーゴ投手(共にイタリア)、アルバレス投手(スペイン)
野手:エンカルナシオン選手、ヒメネス選手(共にスペイン。エンカルナシオンは最年少)、パオリーニ選手(イタリア)、ムジク選手、フルプ選手(共にチェコ)、プロファー選手、セラサ選手(共にオランダ)、ウィリアムソン選手(スイス)
実に、28人中14人が20代。
これを少ないと見るか、ちょうど良いと見るか…。
ほとんどが20代後半の選手で、若手の有望選手は根こそぎMLB傘下に連れて行かれている現状はあります。
ですが、20代頭でマイナーをリリースされた選手やスカウト網から漏れている選手がいるのであれば、その中にあと3人ほどそういった20代前半の選手を入れて良かったのではないでしょうか。
北米のチームのスカウト網から漏れている選手がスペインにはいる可能性もありえます。
侍ジャパンと対戦した欧州代表の今後
試合の開催に対しては、否定的な意見や試合の意義について 疑問視する声がネット上で見られました。
ですが、最も優先されるべきは現場の声。
外野であるファンからの大きな声で、試合開催の有無は左右されるべきではないはずです。
今回出場された両チーム、特に日本側の選手の本気度を感じた試合でした。
侍ジャパンの関係各位、選手の方々に貴重な試合を組んでいただいた点は感謝申し上げます。
日本のトップレベルの投手はMLBに行っても先発、中継、抑え問わず即戦力にもなる人材揃い。
欧州代表にとっては、日本のレベルの高い投手の球を打席で見る機会は貴重で、きっかけとして能力向上のチャンスにもなってくるでしょう。
また投手目線で見ても、「いい投手とはどういったことなのか」「自分に足りない球種は何なのか」「自分のウイークポイントは?」など、今回の日欧野球は若手から中堅の選手達にとって大変大きな貴重な経験を得る絶好の機会だったはずです。
今後も、欧州野球の発展と選手達の活躍を願います。
侍ジャパンと対戦する欧州代表 現地でプレーした日本人が見るスペイン選手の実力
筆者: 岩本剛
プロフィール:大阪府泉大津市出身
社会人野球、東京LBC、ゴールドジムBCを経て2012年以降は海外を渡り歩き、これまでアメリカのサマーリーグやオランダやスイス等の欧州のリーグを転々し、2017年から直近までスペイン国内リーグ、ベイスボル・バルセロナに所属。
コロナ禍を契機に一度は引退をしたものの、ベースボールユナイテッドで力投を見せていたバートロ・コローンの勇姿に惹かれ現役復帰を決意し、今現在、現役復帰へ向けてリハビリ中。