コロナ禍後45倍に増加した留学申込者数 好調も現場で起きている“ミスマッチ”
コロナ禍が落ち着き、海外からの旅行客が増加していることを実感している人は多いでしょう。
観光業界は、インバウンド消費がコロナ前の状態に回復していることに沸き立っています。
同様に日本からの海外旅行者や留学者数も増え、コロナで長く苦境に立たされていた旅行業界なども元気を取り戻しています。
コロナ初期と比較すると留学希望者は約45倍に
日本最大級の留学メディア・留学エージェント「スクールウィズ」を運営する株式会社スクールウィズによると、留学申込者数はコロナ以前(2019年)を100とすると、コロナ初期の2020年は2.6と大幅にダウン。
現在はそこから回復し、2023年3月末の時点で118.9とコロナ前よりも増加しています。
コロナ初期のどん底の時と比較すると、留学申込者数が約45倍に増えたと同社は報告。
この後も右肩上がりで増加し、2023年4~6月は約68倍になると予想しています。
増加の内訳について同社は、「主に学生の留学が解禁されたことに加えて、『リモートワーク留学』とインバウンド観光業に携わる人たちの需要が高まったことが背景にある」と分析しました。
その一方で、コロナ前とは留学に対するモチベーションに変化が生じており、数字だけを見て今後の留学を見通すことはできないという意見もあります。
コロナ禍前後で留学ニーズに変化
NewSphereは、留学エージェントである中谷よしふみ氏(ヨリミチ合同会社代表社員)に留学事情について聞きました。
中谷氏は、IT業界で従事しながら、2012年に自身がフィリピンへ留学したことをきっかけにエージェント業もスタート。
コロナで留学がストップする前は、1年の半分をフィリピンで過ごしていました。
中谷氏も現在の留学希望者の増加には、上記と同様の背景があるとしつつも、次のように分析しています。
「コロナ禍にリモート化が進んだことで、海外に行かないオンライン留学を選ぶ人も増えてきました。
ネットで海外の情報を詳細に知ることができるようになり、外国への興味・関心を高めた一方で、オンラインミーティングの一般化は、海外に行くことがマストではないという認識も生み出しました。
今、そしてこれからの留学を考える上で、こうした変化を無視できないと思います」
ということは今後、実際に海外へ留学する人が減っていくのでしょうか。
「海外留学の目的は英語を学ぶことだけではありません。
ネイティブとの交流や文化・風土にふれて学ぶこともたくさんありますので、ニーズはなくならないと思います。
しかし、オンライン留学が選択肢の1つとして加わったことは少なからず影響するでしょう。
何よりコスト面でのメリットが大きいですから。
それとは別に海外へ行く人が減少するかもしれないと危惧していることがあります。それは留学希望者のニーズと留学先の学校とのミスマッチです」
留学希望者のニーズと留学先のミスマッチ
中谷氏によると、留学先の学校は大きく2つ、学生向けとそれ以外に分けられるといいます。
「高校生や大学生向けの学校は『海外を体験すること』が優先される傾向があるため、現地の人たちや様々な国から学校に集まった人たちとの交流が色濃くなりがちです。
そうした学校に英会話のスキルアップを目的とした社会人が入学すれば、ミスマッチが起こってしまいます」
学生向け以外の学校は、留学希望者のニーズに応えられるよう、各校で様々な特色をもっているため、さらにミスマッチが起こりやすくなるといいます。
「例えば、観光も楽しみたい人向けの学校は、ロケーションや施設にコストをかけているため、講師の指導力や教材の質が他校より見劣りするようなことがあります。
また、観光の時間を確保したカリキュラムとなるため、学ぶ時間が少なくなります。
そうした学校にビジネス英語を学びたい人が入学すると、思うようなスキルを身につけられない可能性が高くなります。
こうしたミスマッチの増加は留学のマイナスイメージにつながり、海外へ学びに行く人が減る要因になってしまいます」
留学でミスマッチが起きる原因
上記のミスマッチは、留学する学校が自分の目的に合っているかを事前にしっかり調べることで回避できそうですが、それについて中谷氏は、
「残念なことに、カリキュラムや授業形態、使用教材、講師についてなど、学ぶ上で重要な情報をサイトに掲載している学校はほとんどありません。
掲載されているのは施設のアピールポイントや周囲の美しい景観など、目を惹きやすい写真やキャッチコピーが多く、言い方は良くないですが集客目的の情報ばかり。
また、口コミ情報は信頼性の問題があります。そのため、ネットからは事前に十分な情報を得ることが難しいのが現状です」と言います。
さらに、学校を運営している国によっても、違いがあるとのこと。
「フィリピンの例を挙げると、日本人が運営している学校とほかの国の人が運営する学校では、目的や理念も異なり、それによって学校の規模もカリキュラムもサービスも変わってきます。
日本人が運営している学校は、きめ細やかな指導やサービスの提供を重要視する傾向があります。
そのため、講師1人あたりの生徒数が多くならないよう定員が少なめのところが一般的ですが、他国の人が運営する学校には、様々な国の生徒とコミュニケーションできる点を重視し、定員も施設もビッグサイズな学校があるなど様々です」
こうした情報を知らずに海外へ留学する人が増えることを、中谷氏は危惧しているのです。
これからの海外留学で押さえておくべきポイント
2023年11~12月にフィリピンの英会話学校を視察した中谷氏。
危惧していることをより実感したと言います。
「日本人は文法の理解度と比較すると会話力が弱い傾向があり、それを学びに留学を希望する人が多いため、会話力が身につくことをアピールしている学校もたくさんあります。
しかし、実際は文法中心のカリキュラムであったり、学べる会話レベルが思ったほどではないなど、ミスマッチを引き起こす可能性が高いと感じました」
では、どうしたらミスマッチを回避することができるのでしょうか。
「現地へ赴き、きちんと視察したエージェントや留学体験者、海外生活経験者に相談し、アドバイスをもらうのがもっとも有効だと思います。
私も相談を受けていますが、例えばビジネス英会話を学びたいという人がいたら、会話力よりも書く力を高めることをお勧めした上で、その方の会話力に応じた留学先をアドバイスします。
ビジネスで英語力が本当に必要になるのは文書を書く時だからです。
もし、会話がそこそこできるのであれば、書く力の向上に特化したオンライン留学をお勧めすることもあります。
アナログな手法に思えるかもしれませんが、相談する手間を惜しむかどうかで、留学から得られるものは大きく変わります」
これからの留学は、より一層その目的を明確にし、それにマッチする留学先を見つけるためにとことん調べることが重要になりそうです。
円安が続いている昨今、安くない留学費用を無駄にしないためにも、ネットだけでなく、現地のリアルな情報を得ている人にアドバイスをもらうことから始めてみましょう。