43歳久保康友がドイツで最優秀投手 懸念点は15試合登板で13完投による「使い捨て」
プロ野球(以下:NPB)はオフシーズンに突入すると、選手の移籍話が話題になります。
今オフの目玉は、メジャーリーグ(以下:MLB)移籍を目指す、オリックス・バファローズに所属する山本由伸投手。
世界に目を向けてみると、海外に活躍の場を求める日本人選手が増えてきました。
山本投手のように第一線で活躍した選手が海外に行くとなると、主流はMLB。
とはいえ、アメリカでプレーすることだけが野球人生ではありません。
NPBでプレーした後、世界を転々とするジャーニーマンがいます。それが久保康友(くぼ・やすとも)投手です。
千葉ロッテなどを経た後、アメリカ、メキシコ、ドイツでプレーしてきた久保康友
久保投手は2023年11月現在、43歳の右腕。
いわゆる「松坂世代」と言われ、NPBでも多くの記録を残した選手たちと同世代です。
久保投手自身も千葉ロッテマリーンズでプロ生活をスタートさせると、1年目の2005年に10勝を挙げて新人王を獲得。その後も先発ローテーションを守ってキャリアを積んでいきました。
阪神タイガース、横浜DeNAベイスターズでもプレーし、2017年シーズンを最後にNPBからは離れています。
翌年から活躍の場を海外に移して、アメリカやメキシコを巡り、2023年はドイツのブンデスリーガに久保投手の姿がありました。
ドイツ・ブンデスリーガは、1部と2部の2リーグ制。
久保投手が所属した1部は、北部と南部にそれぞれ各8チームあります。
年によって各球団の金銭的理由でその数が変わることもありますが、試合は基本、週末に開催され、時にはダブルヘッダーも行われます。
久保投手が入団したのは、北部にあるハンブルク・スティーラーズというチーム。
ドイツ初年度でありながら、久保投手は防御率1.62、奪三振104の成績を残し、タイトルを獲得しました。
NPBを離れて約6年。40歳を超えた今でもマウンドに立ち続ける姿は、多くの選手の力になることでしょう。
ブンデスリーガの現場を知る片山和総が語るドイツ野球事情
今回、久保投手の活躍を受けてNewSphereは、ドイツ・ブンデスリーガでプレーした経験を持ち、現地でも監督も務めた片山和総(かたやま・かずさ)さんにお話を聞きました。
片山さんは福岡県出身。本格的に野球を始めたのは中学生からだそうで、中学時代に県選抜のメンバーとなり、優勝した経験があります。
東福岡高校でプレーした後は、帝京大学の準硬式野球部に所属していました。
近年、準硬式野球経験者がプロ入りする事例が増えてきましたが、片山さんは大学卒業までに軟式・硬式・準硬式と3種類の野球を経験した経歴の持ち主です。
そんな片山さんがなぜ、ドイツに渡ることになったのでしょうか。
「既に中学生の時点で、ドイツをはじめヨーロッパで野球が行われていることは知っていました。当時の恩師が現地とつながりを持っていたので、それが大きかったですね」と振り返ります。
大学卒業を間近に控えた片山さんにとって、「選手を引退する」という考えに至らなかったといいます。そこで中学時代の恩師に連絡をし、ドイツに行く道が開けました。
助っ人選手からドイツ球団の監督になった片山和総
2016年、ドイツに渡った片山さんはブンデスリーガ1部の北部に所属するケルン・カージナルスに入団します。
同リーグには、アメリカやその他海外リーグでプレーしてきた選手がズラリ。
片山さんは彼らと同じく、「助っ人外国人選手」という立場でシーズンに臨むことになります。
主にセカンドやキャッチャーと多くのポジションで出場機会を増やし、「初年度はとにかく結果にこだわりました」と振り返った片山さん。
37試合に出場し、打率.387、盗塁9、OPS.991の成績を残しました。
その姿でチームからの信頼を得た片山さんは、カージナルスに長く在籍することになります。
さらに選手としてプレーするだけではなく、チームの監督も務めることになったのです。
2023年現在は選手こそ引退しましたが、球団特別アドバイザーとして同球団と今でもよい関係を築いています。
ドイツで活躍する久保康友への懸念点
こうして選手や監督、アドバイザーとして長くドイツ野球を見てきた片山さんに、今季の久保投手の活躍について聞きました。
片山さんは「久保さんの活躍は素晴らしいこと」と前置きしながらも、リーグの現状を解説。
「久保投手が所属したスティーラーズは、北部リーグでも中堅クラスです。投手が足りないチーム事情もあり、登板機会は多くあったと思います」と話します。
ドイツをはじめ、海外リーグでプレーする外国人投手に求められる能力は、「球速145キロ」「空振りが取れる変化球」「長いイニングを投げられること」だといいます。
日本にも毎年のように外国人選手がやってきますが、彼らには多くの試合に出て活躍が期待されます。
ドイツ現地でもそれは共通認識としてあり、入団したからには活躍してもらわなければ困るという考えがあるのです。
2023年シーズン、久保投手は15試合に登板していますが、13完投とほぼ1人で投げ続けていました。
久保投手に次いで、投手成績2位の選手は15試合に登板し、6完投です。
片山さんが話す通り、久保投手が所属するチームには投手がいなかったことが垣間見えます。
「久保投手の活躍は素晴らしいです。しかし、実際の成績からブンデスリーガの状況を考えると、日本での報道の仕方には違和感があります」と語る片山さん。
確かに久保投手は北部リーグの最優秀選手であり、タイトルも獲得しました。
その姿に、日本のメディアやファンは絶賛しています。
ですが片山さんは、起用法から外国人選手の使い捨てを危惧しているのです。
海外野球では日本人が「外国人選手」
日本に海外から選手がやってくるように、海外では私たち日本人が「外国人選手」になります。
また、競争相手はアメリカやその他リーグで一定の成績を残した選手たちです。
ヨーロッパで日本人選手は挑戦者ではなく、「必ず活躍しなければならない選手」になるので、立場が違うのです。
活躍できなければ、シーズン中でもクビになる、とても厳しい世界。
これが海外野球の現状です。
今回、片山さんのお話を通じて知ったことは「ドイツでは元々、日本人選手には需要がない」という事実でした。
実際に片山さん自身が初年度に結果にこだわったことでチームからの信頼を得た経緯があるものの、入団した日本人選手は1人の外国人選手としてしか見られていないのです。
この状態から立ち位置を確立するのは難しいことなので、生半可な気持ちでドイツではプレーできません。
リーグの厳しい現状がありながらも、今回の久保投手の活躍をきっかけに、ドイツの野球が注目されることを願いたいです。
海外野球を知るには、個人成績で判断するだけではなく、リーグ全体のことも知る必要があります。
【関連記事】