スーパーに売られていた枕のようなもの 今やカナダでも少数派のプラスチック袋に入った牛乳
日本で牛乳といえば、ガラス瓶や紙パックに入っているのが普通です。
しかし海外には、プラスチック袋に入った牛乳が存在するのを知っていますか。
今回は、筆者が住んでいるカナダのプラスチック袋入り牛乳について紹介します。
カナダで売られているプラスチック袋入りの牛乳
カナダの袋入り牛乳は、1袋1.33L分が3袋入って、合計4Lで販売されています。
縦長の袋で、見た目は小さな枕のようです。
袋入り牛乳を初めて見た人は、「どうやって使うの?」と疑問に思うでしょう。
実は専用のピッチャーが必要です。
牛乳を袋から直接、ピッチャーに移すのではありません。
ピッチャーに袋ごと入れ、袋のはじを切って注ぎ口を作り、袋に入ったままを使用します。
スーパーでは牛乳売り場の近くで売られていたり、Amazonでも購入できたりします。
注ぎ口が広すぎても狭すぎても、牛乳が勢いよく出てきてしまい、ちょうどいい大きさに切るのが意外と難しいのです。
牛乳を注ぐ時に、袋が容器からすべり落ちないかと心配になりますが、そこは安心。
一度容器に入れると、袋がしっかりと密着して、ズレ落ちるようなことはありません。
使用後は、注ぎ口をクリップなどで閉じて冷蔵庫に保存します。
賞味期限は未開封の場合、紙パックと同様に約1ヶ月ほどです。
50年以上前に生まれたカナダの袋入り牛乳
カナダでの袋入り牛乳の歴史は、50年以上前にさかのぼります。
袋入りが誕生したのは1960年後半。
アメリカの化学メーカーであるデュポン社によって、牛乳の保存用プラスチック袋が製造されました。
それまでカナダでは、ガラス瓶や紙パック、プラスチック容器で牛乳を販売。
しかし1970年代に、カナダでメートル法が導入されたのが転機となりました。
牛乳販売メーカーは、今までヤードポンド法で作られた容器のサイズをメートル法に合わせて、新たに作り直さなければいけないという課題に直面します。
それには製造ラインを再設計するなど、膨大なコストがかかりました。
一方プラスチックの袋なら、製造過程で袋をカットする部分を1クォート(約0.95L)から1.33L分に変更するだけ。
またガラス瓶の場合、輸送の際に重く、壊れやすいという欠点があります。
そのため販売業者の多くは、製造や輸送のコストが安いプラスチック袋を採用したのです。
店頭には専用のピッチャーも販売され、袋入り牛乳は消費者に受け入れられます。
しかし高密度ポリエチレンが安価になると、プラスチック容器入り牛乳の販売が主流に。
袋入り牛乳の販売は減少し、カナダの西部ではほとんど見られなくなります。
一方、カナダ東部のオンタリオ州では、1パイント(4.7L)以上の牛乳はプラスチック袋かラミネート加工容器、あるいはコーティングされた紙パック以外の容器での販売ができませんでした。
また小売業者は、プラスチック容器に入った牛乳の販売時に、デポジット制度を導入する必要がありました。
消費者は、リサイクル代としてデポジットを払えば、プラスチック容器入りの牛乳を購入できたそうです。
使用後、容器を店に戻せば、デポジットが返金されます。
しかし袋入りにはそのような規制がなかったため、多くのスーパーなどは、袋入り牛乳を主に販売していました。
そのため、袋入り牛乳の人気が他の州では減少したあとも、東部では販売され続け、規制がなくなった今でも店頭に並んでいます。
プラスチック袋と紙パック牛乳、味は変わる?
ノースカロライナ州立大学が容器別による牛乳の味覚の差異を調査したところ、紙パックはプラスチック入りよりも、風味が劣るという結果になったといいます。
紙パック、プラスチック袋、ペットボトル、高密度ポリエチレン容器、ガラス瓶に入った牛乳を開封から5日、10日、15日ごとに味覚テストを実施。
また包装材料に含まれた化合物が牛乳に混入していないか、味覚テストと同じ期間中に調べたそうです。
すると、紙パック入りの牛乳は最も風味が損なわれているという結果になりました。
それだけではなく、紙パックの化合物が牛乳に含まれていることもわかったといいます。
紙パックの次に風味の劣化が感じられたのは、プラスチック袋入りの牛乳だったとのこと。
最も牛乳の新鮮な味が残っていたのは、ガラス瓶とプラスチック容器でした。
しかし消費者の中では、紙パックの牛乳はプラスチック袋入りよりも味が勝ると感じる人もいます。
やはり味はその人の好みによって異なるのかもしれません。
プラスチックに入った牛乳、雑菌の心配はない?
日本では「ペットボトル入りの牛乳は、雑菌が繁殖する心配がある」と耳にすることがあります。
海外で売られているプラスチック入りの牛乳は、雑菌の心配はないのでしょうか。
プラスチック容器に入っている牛乳は、138~158℃以上の温度で2秒間加熱する処理がされています。そのため長期の保存が可能です。
またパンやシリアルが朝食のメインである海外では、牛乳の消費量が日本より圧倒的に多く、すぐに使い切ってしまう傾向にあります。
カナダを例にあげると、年間の1人あたりの消費量は約58Lです。
それに比べ一般社団法人日本乳業協会によると、日本は約31L(2019年時点)とほぼ半分以下でした。
これも、プラスチック入り牛乳が市場に出ている理由のひとつと考えられます。
環境とお財布への影響が少ないプラスチック袋に入った牛乳
カナダのダルハウジー大学の研究によると、プラスチック袋入り牛乳は、紙パックよりも環境への影響が少ないという結果が出たそうです。
研究ではプラスチック袋と紙パック、プラスチック容器の製造、輸送、廃棄に消費されるエネルギーの使用量、温室効果ガス排出量、水の量を評価しました。
その結果、エネルギー消費量と温室効果ガス排出量が多いのは、紙とプラスチック容器の製造によるものだったといいます。
プラスチック袋は、紙パックやプラスチック容器に比べてリッターあたり約20%から30%のエネルギーしか消費しません。
また温室効果ガスの発生は、20%から40%しかなく、水の使用量は紙パックの約2%ほどでした。
価格を比較すると、紙パック2Lの平均販売価格は、5.14カナダドル(568円)に対し、袋入り4Lは、6.39カナダドル(706円)です。
製造コストが紙パックよりもかからないため、袋入りは1.5割ほど安く販売されています。
つまり消費者のお財布にもやさしいのです。
現在カナダ国内で袋入り牛乳が購入できる州は、オンタリオ州とケベック州、沿海州のみ。
今では国内でも珍しいものとして存在しています。
他の容器の牛乳よりもお得に購入できる点や、販売されている州での購入率が高い点などから、カナダから袋入り牛乳が完全に姿を消すことはまだなさそうです。
メートル法が導入されたことによって、人気になったプラスチック袋入り牛乳。
カナダを語るうえで、かかせない文化の一部といえるでしょう。