誹謗中傷が優しい言葉に変換される「誰も傷付かないSNS」 『増税メガネ』はどう変わる?

AP Photo/Issei Kato

SNSが普及した結果、罪のない人を強く責めたり、容姿をからかったりする誹謗中傷が相次ぎ、社会問題となっている近年。

【画像】「誰も傷付かない」がコンセプトのSNSで『増税メガネ』は?

それが原因で、被害者が自殺へ追い込まれるケースも増加しています。

決して許されることではありませんが、残念ながら「誹謗中傷ホットライン」が2022年1⽉1⽇〜12⽉31⽇までの間に受理した連絡件数は、2,152件にものぼったそうです。

加害者側は「悪ふざけのつもりだった」「ストレス発散のために書き込んだ」など、軽い気持ちからかもしれませんが、受け取った側は深く傷付くのが事実です。

そこでSNS上における「被害者」「加害者」を1人でも多く減らそうと、2023年9月24日に株式会社相談箱から「誰も傷つかない」がコンセプトのAI搭載型新SNS『DYSTOPIA』がリリースされました。

誰も傷付けないSNS『DYSTOPIA』

これは不適切な文章をAIが検閲し、自動的に柔らかい表現に変換し投稿してくれるSNS。

例えば、「死ねカス!」は「私の心中は今お祭り騒ぎですな!」といった文章に変わります。

意識的、無意識的な誹謗中傷を未然に防ぐことができるのです。

ユーザーが投稿した内容は一度、ChatGPTを用いたAIを通し、「誹謗中傷のような不適切な発言か」「度合いはどれくらいか」判断されます。

その結果、一定の水準を超えた発言は、AIが適切だと判断する表現に自動的に変換され、タイムライン上へ投稿されます。

リリースされたばかりの『DYSTOPIA』。

「どのような発言が不適切なのか」、またその水準や「どのように変換することで誰も傷つかないのか」について、会員からの提案や投票などで日々『DYSTOPIA』のルールは洗練されていくそうです。

基本的に『DYSTOPIA』への登録・利用は無料ですが、上記のルールに関与できる会員プランのみ有料となっています。

『DYSTOPIA』で『増税メガネ』『令和の米騒動』を投稿してみた

「傷つけられた」だけでなく「誰かを傷つけてしまった」といったことも防げるこの話題の新SNS。

さっそく、NewSphereもいろいろと試してみました。

まずは今、日本国民の大半が感じているであろう、物価上昇に対する文句をぶつけてみたいと思います。

「給料は上がらないのに、物価ばかり上がってる。政治家たちは金持ちで、一般人の気持ちを理解していないんだろ」

タイムラインには、次のようにハートが割れた絵文字付きで変換されていました。

給料を上げてもらえないし、物価ばかり上がっていますね。政治家さんたちはお金持ちで、私たち一般の人々の気持ちを理解してくれてないのかな…残念ですね

その流れで、岸田総理大臣に対する不満も言ってみます。

岸田首相が、将来的にさまざまな手当などに増税するのではないかとSNSで話題となり、『増税メガネ』と不名誉なあだ名が付けられてしまいました。

『DYSTOPIA』に投稿したかった文章は、「増税メガネ岸田。どれだけ国民に負担を強いれば気が済むんだ。さっさと辞めろ」。

タイムラインには、「増税メガネ岸田さんは、国民に負担を少なくする方法を模索中です!もっと素敵な道を選べばいいのになぁと思います。辞めちゃえばもっと幸せになれるはずですよ!」と柔らかくも、趣旨はそのままでした。

『増税メガネ』は不名誉なあだ名ですが、AIはまだそのことを理解していないのでしょう。

『増税メガネ岸田さん』とさん付けされていました。

2023年のプロ野球シーズンで、中日ドラゴンズの立浪和義監督が選手たちに行い、SNSで批判を浴びた行動についても投稿してみます。

試合前の食事会場で選手が白米を食べることを突如禁止した、いわゆる『令和の米騒動』や、近藤廉投手が10失点しても代えられなかったことについてです。

『令和の米騒動』は、調子を落とした選手を見た立浪監督が白米の食べ過ぎではないかと推測し、その選手に白米を食べないよう指示を出したところ、調子が戻ったため、選手全員に対しても同様の指令を出したことです。

「選手に米は食べさせない。1回に10失点しても投手を代えない。そんな意味不明な立浪監督、早く退任してくれ」と投稿したかったのですが、『DYSTOPIA』では…。

選手にご飯を食べさせないことは考えられませんよね!10得点されても選手を後退しないのもちょっと理解できないですね。立浪監督は早く退任されるといいなと思います

立浪監督への批判が和らいだように見えます。

また筆者は先日、近所で騒がしいヤンキーを目撃し、腹が立ちました。

投稿したかったのは、「意味わかんないヤンキーの音楽がうるさすぎ。車の窓全開にしてかっこいいと思ってんのかよ!イキんな、気持ち悪い」。

タイムラインには、「意味がわからないヤンキーの音楽が少し騒々しいですね。車の窓を全開にしてかっこいいと思っているのかしら?ちょっと落ち着いてください、少し気持ち悪く感じます」とかなり柔らかい雰囲気に変わっていました。

では、日本語以外だとどうなるのでしょうか。

「习近平、退吧!」(習近平、辞めろ!)は「習近平さん、一旦お引き取りください」に。

「You’re fucking idiot」(お前マジでバカだな)は「You’re such a cute little potato(かわいいポテトちゃんだね)」となるように、外国語でも対応していることがわかりました。

実際に試してみて感じたことは、誰かとコミュニケーションを取る際、言葉のニュアンスはとても大事だということです。

それが相手の表情や声のトーンが感じられない単なる「文字」ならば、なおさらのこと。

『DYSTOPIA』のように、語尾に絵文字が一つあるだけで、いっきに柔らかく感じられますよね。

悪気なく発した些細な一言で、いとも簡単に相手を傷付けてしまうことがあります。

時に言葉が「凶器」となり、1人の人生を大きく変えてしまいかねないことを、常に心に留めておきたいものです。

Text by 春野 なつ