「後戻りできない」AIの年 タイム誌「今年の人」にAIの設計者たち

タイム誌CEOのジェシカ・シブリー氏(12月11日)|Richard Drew / AP Photo

 タイム誌が毎年発表する恒例企画「今年の人」。2025年版では、特定の個人ではなく、「AIの設計者たち」が選ばれた。タイム誌は「設計者たち」を、AIを構想し、設計し、構築した人々として位置づける。中心にはエヌビディア、オープンAI、メタ、xAIなど、AI開発を牽引する企業のトップや開発陣がいる。

◆AI投資・開発・導入が本格的に加速した年
 タイム誌の記事は、AI企業の動きをトランプ政権の就任時点まで遡って振り返っている。1月の大統領就任式には、主要テック企業のCEOたちが顔を揃えた。

 同日、中国のAIスタートアップ、ディープシークが、開発費を大幅に抑えながらも高い競争力を持つ新バージョンを発表し、市場に大きな衝撃を与えた。

 さらにその翌日には、オープンAI、ソフトバンクグループ、オラクルなどが主導する、アメリカ国内にAIインフラを新たに構築するための5000億ドル規模の投資計画「スターゲイト・プロジェクト」が発表されている。

 こうした一連の出来事について、タイム誌は「AIの本当の可能性が一気に表面化し、もはや後戻りも、関わらずに済ませることもできない時代に入ったことが明確になった年だった」と表現する。

 「今年の人」号には2種類の表紙が用意され、半導体メーカー、エヌビディアのCEOであるジェンスン・フアン、メタのCEOマーク・ザッカーバーグ、xAIのCEOイーロン・マスク、スタンフォード大学「人間中心のAI研究所(HAI)」の共同所長を務めるフェイ・フェイ・リーらが描かれている。

 フアンは、今年11月に行われたタイム誌のインタビューで、「(AIは)すべての産業に必要とされ、すべての企業が活用し、そしてすべての国が構築しなければならないものだ」と語った

 実際、エヌビディアではエンジニアの大半が、カーソルやクロード・コードといったAIを活用したコーディングツールを使用しているという。クロードは、いまやコードの最大90%を自ら生成している。

 また、エヌビディアの競合であるAMDのCEO、リサ・スーは、「2025年は、AIが企業の生産性向上に本格的に貢献し始めた年だ」とコメントしている。

◆「AI対人間」という対立構造
 「今年の人」号の2つの表紙デザインは、それぞれ異なるアーティストが手がけているが、同誌のクリエイティブ・ディレクターであるD.W.パインは、検討の過程でAIツールも試したと話す

 複数のプロンプトを入力し、細かな調整を重ねていく作業は、まるでアートディレクションを行っているような感覚だったという。AIはあくまで筆やカメラのレンズのような道具であり、AIとの「協働」においては人間の意思決定が不可欠であることを、あらためて実感したと振り返る。

 一方で、AIが急速に進化する中、「AI vs 人間」という緊張感や、AIがもたらすリスクも無視できない。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが今年4月に発表した調査(調査は2024年に実施)によると、AIに対する期待や不安の度合いについて、一般市民とAI専門家の間には大きな認識の差があることが明らかになった。

 例えば、今後20年でAIがアメリカにプラスの影響をもたらすと考える専門家は56%にのぼる一方、一般市民では17%にとどまり、35%がマイナスの影響をもたらすと回答している。また、一般市民の43%がAIを「害をもたらす」と捉えているのに対し、AI専門家の76%は「利益をもたらす」と答えている。さらに、今後20年間でAIが雇用を奪うと考える一般市民は64%に達する一方、専門家では39%にとどまった。

 AIのリスクを理由に開発の減速を求める2年前の働きかけは、表舞台からほぼ姿を消した。人類の未来は、いまや「AIの設計者たち」に大きく委ねられている。そして来年の「今年の人」は、もはやAIそのものに置き換えられるのかもしれない。

Text by MAKI NAKATA