ロボット覇権を握る中国 米は同盟戦略が鍵

中国・重慶のイベントで展示されたEV組み立て用のロボットアーム(9月5日)|helloabc / Shutterstock.com

 最新の統計で、中国の産業用ロボット稼働台数が2024年に200万台を突破し、世界最大の地位を固めた。製造技術の向上に加え、国策として推進してきたロボット開発が実を結び、今後は汎用人型ロボットでも存在感を強める見通しだ。一方、これまでロボティクスを牽引(けんいん)してきたアメリカは、国家的な戦略なしに中国と競うのは難しいとの見方が広がっている。

◆ロボット需要が旺盛 中国が最大市場に
 国際ロボット連盟(IFR)の「ワールド・ロボティクス2025」によれば、2024年の世界の産業用ロボット導入台数は54万2000台で、10年前の2倍以上に拡大した。稼働台数は世界全体で前年比9%増の466万4000台。IFRの伊藤孝幸会長は「多くの産業がデジタル化・自動化の時代へ移行する中、需要は急増している」と述べる。

 とりわけ中国の伸びが際立つ。2024年の導入台数は29万5000台で過去最高、世界の54%を占めた。国産ロボットの販売が初めて外国産を上回り、国産シェアは57%に達した。稼働台数も200万台を超え世界最多。需要の減速は見られず、2028年まで年平均10%の成長が見込まれる。

◆国策で大躍進 巨大エコシステムを構築
 中国政府は国家戦略「中国製造2025」の一環としてロボット分野の競争力強化を最優先課題に据え、低金利融資、海外企業の買収支援、政府資金の直接投入など手厚い支援を行ってきた。

 成長を支えたのは補助金だけではない。国内にはダイナミックで競争的かつ開放的なエコシステムが形成され、淘汰を経て世界水準の企業が育っている。さらに中国共産党は外資を奨励しつつも、戦略的な分野における技術やデータへのアクセスをコントロールすることで、国内企業の競争環境を有利にしてきた。

 現場の工場は新技術を素早く採用し、超高速のデジタルインフラと、低コストながら高度な技能を持つ人材に支えられて、他国が追随しにくいコストとスピードで高度製品を量産している。かつて「模倣はできても革新はできない」「革新はできても高精度製品は作れない」と揶揄(やゆ)されたが、現在では太陽光や5Gなど多くの分野で世界を圧倒。ロボットでも同じパターンが進行し、戦略産業の主導を狙う国家方針がはまり、中国はロボット大国へと躍進した。

◆人型ロボットでも台頭 米国は同盟国との連携が鍵
 IFRの統計には、なお実験段階が多い汎用人型ロボットは含まれない。しかし政府支援を背景に、中国では人型ロボットと部品の企業群からなるエコシステムが急拡大している。代表例のユニツリー・ロボティクスは、業界をリードするアメリカのボストン・ダイナミクス製品の数分の一の価格で最新の人型ロボットを販売している。(ニューヨーク・タイムズ

 一方アメリカでは、ロボット技術が重要産業を再編する原動力となるなか、新旧の規制が開発の障害になっているとの指摘がある。アメリカのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツは規制の見直しを不可欠とする一方、エコシステムは短期間では築けず、中国に追いつくには時間が足りないとみる。現状で最も現実的なのは、ドイツ、日本、韓国など同盟国と連携して強固なサプライチェーンを整え、AIとロボティクスの基盤を固めることだとし、競争に踏み出さなければ、中国に市場シェアを奪われ続けると警鐘を鳴らしている。

Text by 山川 真智子